希と望 ページ18
「やめて、お願い…!」
目を開けば、至近距離に担当医の顔があった。
目が恐怖で震えていて、今にも泣きそうな顔だった…
「もし君がその選択をしてしまったら…もう君と会えなくなる、君の世界に僕はいなくなってしまう…嫌だ、お願い、やめて……」
ぎゅっと抱きしめられた。
私が思いついたのは、"未知への恐怖"。
この人はきっと、二つの方向の世界に生きる人なのだ。
それ以外の答えは許されない。
つまり三つの方向の世界というのは未知の世界であり、未知のものであり、この人にとって恐怖なのだ。
そんなの。
「…希さん。私たちの名前は合わせると希望になります。それは、私の片割れであることを示しているんですよね。」
そう言うと、一瞬、希さんの体が震えた。
「つまり…この場所も、あなたも、全ては私の幻想だったんです。私は、あなたのような存在を無意識に望んでたんです。」
でも、と私は続ける。
「…私はこうやって自問を続けて、世界は三方向どころか色んな方向に広がってることに気付きました。衝動か規範かだなんて、決められないんです。時と場合によってしまうんです。」
「望」
「…はい」
彼の体が少し離れる。
初めて私は人の体温が離れてく寂しさを覚えた。
「…やっぱり君は賢いね。君をここに留めたかったけど…」
バレちゃったなら、留めることは出来ないね。
そう言うと、彼は微笑んだ。
そして泣きながら語り始めた。
「君のことを、ずっと見てたんだ。ずっと孤独で、感情を吐き出す場所がなくて、苦しんでる君を…助けを求める心の叫びも聞こえた。でも、僕にはどうすることも出来なくて。
でもね、ある日君が僕のような存在を望むようになって、夢に引きずり込むことに成功した。夢の中なら、君が傷つくことも無い。
けど…どうやら違ったみたいで、傷つくことも必要だったらしくて。僕がそれに気付いた時には、君はこうして、答えを見つけていた。
…そろそろ朝になるよ。お別れだね」
どうしてだろう、苦しい。
必死に涙を堪えて笑おうとしている希を見て、余計に苦しくなる。
この数週間が夢だったなんて。
初めて幸福感を感じた空間や、初めて好きという感情を覚えた場所が、幻想だったなんて。
…そんなことがあっていいのか、分からない。
「…希、ありがとう。"またね"」
「……またね、望」
白い病室の壁や床に朝日が反射して、
希の涙と微笑みごと幻想を消し去った。
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作者名:桜花 | 作成日時:2021年2月10日 13時