＊ ページ40
その後、現場に着き衣装に着替えメイクも済ませ、撮影が始まった。
先ほど楽屋で飲んだ薬が効いているのか、はたまた「効いていてほしい」という俺の願望からのプラセボ効果なのかはわからないが、撮影時は痛みは無く滞りなく進んだ。
そのまま順調に進んで、今はインタビューの時間。
これまでも何回かお世話になっているライターさんが相手のため、特に緊張もせず始まったインタビューだが、数分経つと胃のあたりがもやもやする感覚がした。
「(あ、これダメなやつだ)」
「阿部さんは、この冬に絶対食べたいと思うお料理ってあります？」
「…あ、そう、ですね…やっぱりお鍋とか？」
言葉を発するたびに胃の痛みが増していくのがわかる。いつものように胸をさすって深呼吸をしたいけれど、目の前に座るライターさんに変な心配や誤解をしてほしくない。
俺は太ももの上に置いてある手をぐっと力一杯握り締め、インタビュー終了まで持ちこたえるように意識を保つ。
静かに溢れ出てくる冷や汗が、俺の背中をしっとりと濡らしていくのがわかった。
──────────────────────
気づいたら俺はトイレの洗面台に凭れかかっていた。
いや、自分でもびっくりだけど、あの後のインタビューの記憶が全く無い。本当に、綺麗さっぱり。
もうルーティンと化している胸のさすりと深呼吸を繰り返しながら、鏡に映る自分の顔を見つめる。
メイクをしてもらっているはずなのに誰がどう見ても顔色は最悪で、汗もたくさんかいていた。
そんな自分を見てたらもっと体調が悪くなる感じがして、目線を下にずらして見ないようにする。
しかし、さっきから胸をさするのも深呼吸も何回も繰り返してはいるが、胃痛が治まる気配が全くしない。
ここに来て何分経っているのかはわからないけど、そろそろ出ないと次の現場に遅れてしまう。
完全に治まるまではここにいたいが、たぶんそれだと間に合わない気がする。
そんなことを考えながらいるとほんの少しだけ痛みが治まった気がして、そのままトイレから出る。
楽屋に着いて自身のスマホで時間を確認すると、ちょうど移動の時間になっていた。
俺はカバンから持参してきた薬を取り出して飲んで、まだ少し痛む胃は気にせずに楽屋を後にした。
「大丈夫、大丈夫…」
そう自分に言い聞かせながら。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 683人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
香さん - しょっぴーのだてさんの呼び方を良太にするともっといいと思います (12月2日 20時) (
レス) @page22 id: 5b7efd0466 (このIDを非表示/違反報告)
さんかっけい(プロフ) - みりぃ（緑璃）さん» ご感想ありがとうございます…！励みになります(_ _)今後も精進して参りますのでよろしくお願いいたします！ (2022年12月22日 20時) (レス) id: 354f0ed835 (このIDを非表示/違反報告)
みりぃ（緑璃）(プロフ) - テンポのいい文章が読んでてとても心地良いです。これからも更新を楽しみにしてます (2022年12月22日 17時) (レス) @page44 id: e9c37a05cd (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：さんかっけい | 作成日時：2022年12月4日 2時
