来世はもっと、 ページ5
･･･ーーー･･･
いつからこんな人間になってしまったのだろう。
風の吹き荒れるビルの屋上から下を見下ろすと
子供の頃に憧れていた満天の星空のような建物の灯りが光り輝いて私を呼ぶ。
下の方が賑わい始めたのも気にせず私は過去の自分を見返す。
パステルピンクで可愛らしい服が大好きだった私は、いつからこんな暗い背伸びした服を着るようになっていたのだろう。
夢みたいに綺麗に見えたあの大人達は、ほんとは全然綺麗ではなくて、
ただ私利私欲に塗れた汚いものだったなんて思いもしなかった。
もう無理と叫んでいる心を知らんぷりして自分を苦しめていた私はいつの間にか左の耳が聞こえなくなっていた。
月明かりに照らされて輝く左耳のピアスを外し、
放り投げる。
こんな耳でも愛してくれると言って私にこのピアスを渡した彼は結局、どこかへ消えてしまった。
枯れきったように出てきすらしない涙に嫌気がさしながら、自分に着いている装飾品を一つ一つなぞる。
この指輪は祖母から最後に貰った大切な指輪。
このネックレスは初めて彼がプレゼントしてくれた物。
ブレスレットは私が始めて██をしてしまった時に戒めとしてつけ始めたもの
このドレスは、この靴は、なんて続けているうちに、高校の時家を出る前母さんへ投げた言葉を思い出した。
"母さんの子になんて産まれなければ良かった"
それまでずっと口論を続けていたけれど、
その一言で母さんは黙り込んでしまった。
多分、あの時母さん泣いてたよね。
私はそんなこと知らないと言わんばかりに家を出てそのまま1回も帰っていない。
母さん。ごめんなさい。
今ではそんなことちっとも思っていないよ。
ごめんなさい。
こんな人間になってしまって。
もし生まれ変わりが本当にあるなら、
次こそは母さんの自慢できるような娘になる。
だから、次はちゃんと、
自慢の娘だって、みんなに私の事紹介してね。
高いヒールのいつまでも履きなれない靴を脱ぎ揃え、フェンスを乗り越える。
来世はもっと、
誰にでも誇れる人生を。
*
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作者名：小路 すみれ | 作成日時：2021年5月2日 13時
