■辞めたい ページ29
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「………あぁ…もう無理……」
真っ暗なオフィスの中で一人明るいパソコンに向かって無表情で打ち込み続ける。
もう9時を回っていて、正直死にそうだ。
トド松くんと十四松くんが来てからというもの、それまでの倍、井矢見さんに怒られる回数が増え、仕事量も倍、帰る時間は9時を過ぎる始末。
現在進行形で結構くじけかけている。
「………終わった」
取り敢えず今日までの仕事を終えて、フラフラで鞄を掴むと戸締りをして職場を後にする。
この前仕事のやりがいを見つけたばかりなのにこんな仕打ち…挫けてしまいそうだ。
「もう仕事辞めたい…」
ため息をつきながらフラフラと家路につくと、ふわふわと香ってきたおでんの匂いに誘われるように真っ暗な中にポツンと佇むチビ太さんのおでん屋さんに入る。
「お!ネエちゃんらっしゃい!」
「チビ太さん…こんばんは」
「お!Aじゃん」
「…おそ松さん」
チビ太さんの優しい笑顔に迎えられ、中に入ろうとすると、すでに先客でおそ松さんがスルメをかじりながら座っていた。
踵を返しかけるとおそ松さんが「飲もうぜ飲もうぜ」と私を屋台へつれもどす。
「かーっ!うめぇ!仕事の後のビールサイコー!」
「お前働いてないだろ」
チビ太さんがツッコミながら、私にもビールをジョッキに入れて渡してくれる。
チビチビと飲んでいると、おそ松さんがじーっと私の顔を見て言った。
「A、なんかあった?」
「え?」
「いや、顔、疲れてんなーと思って」
「……………あんたの…」
「え?」
「あんたの弟が……」
泣きそうになりながら言いかける私に、おそ松さんが「泣くな?泣くなよ?」とおどおどしながら話を聞いてくれる。
「とりあえず飲んで落ち着こう、な?」
「………明日も仕事なんでいいです」
「いいから」
おそ松さんは「チビ太、強めの」と注文すると私に無理矢理お酒を飲ませた。
明日も仕事なのに…と思いながらもおそ松さんの気の抜けた調子にのせられて、思わず飲んでしまってる私だった。
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