＊ ページ46
「小宮山、どうした？ 気分悪い？」
「っ、あ、」
どうしてこんなタイミングで。松本潤が。
Aは自分の運の悪さを呪った。
同期入社で5年。大した関わりもないまま来てしまったこの男に、なぜ今このタイミングで。
「だ、大丈夫っ」
思わず顔を上げたら思いの外近くに松本が立っていて、その濃くて端正な顔を驚きに染めるから。
ああ、泣いていることがバレてしまった。
暗澹たる気持ちになる。松本は仕事に関して妥協がほぼ無いから、職場でこんな風になっているなんて、きっと軽蔑されるとAは思った。
特段仲が良いわけではないけれど、好き好んで嫌われたくもない。
「‥‥腹、痛いの？」
「へ」
真面目なトーンで素っ頓狂なことを言われて、Aは自分が泣いてることも忘れて松本を見つめた。
対する松本も、彼自身おかしなことを口走ったと自覚があるのか口を覆って目を逸らした。
「‥‥‥腹は、痛くない、です」
「‥‥‥だよな、なんかごめん」
「や、良いけど‥」
ふと、松本の視線がテーブルに広げられた住宅情報誌に移る。
怪訝そうに眉を寄せられたので、つい。
いつもなら絶対に喋らない家族のことを、現状を、つらつらと吐き出してしまった。
同期だけどそんなに関わりがなかった松本にだからこそ、言えたのかもしれない。
「‥なるほど、そっか‥‥しんどいな」
「ん。‥‥なんか私って何なんだろって思っちゃって‥‥ごめんね松本。仕事中にこんな話、っていうか時間大丈夫なの！？」
「え、ああ。今日はわりと空いてるし。ていうか、空いてるから話聞けたようなもんだし」
「あ、そうか」
苦笑する。
社会人失格だなと思うのに、あれほど仕事に厳しい松本が怒りもせず話を聞いてくれたことが、まるでそんな駄目なところを許されたような気持ちになって。
「ありがとう、松本」
「‥いや、うん。で？ 都内に出てくんの？」
唐突に物件に話が移ってキョトンとしつつ、Aはすくに「ただ、値段が。払えなくないけど、拘りだすとすぐ決められないし」と返す。
「住みたいとこあんの？」
「それも解んない。いっそマンスリーにして時間作ろうかなって」
「‥‥。なぁ、小宮山って料理洗濯できるんだろ？」
「ん？ え、あ、うん？」
また唐突に話が変わったな、とAは疑問符を浮かべて曖昧に頷く。
目の前の男はなにか思案して、ブツブツとひとり言を繰り返す。
「あの、松本？」
「なぁ」
「んっ？」
「いいとこあんだけど」
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 280人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
お塩(プロフ) - ゆぃさん» そうなんです(笑)マチ子事件簿の裏にはこんなことがあったかも知れないんです(笑)マチ子ちゃんにMJ呼びさせるの超楽しいです☺☺☺ (2022年4月27日 9時) (
レス) @page27 id: c86e5730cc (このIDを非表示/違反報告)
ゆぃ(プロフ) - な、なんと！！あのお話の裏にはこんなことがあるなんて…🤣🤭🫣最高です💜 (2022年4月27日 6時) (レス) @page27 id: 7a81be16ec (このIDを非表示/違反報告)
お塩(プロフ) - ラムさん» ラムさんへ、午後の仕事の活力になってるなら良かったです！！相変わらずの安心安全お塩製なので大丈夫です(笑)バレンタインか？みたいになりますけどww (2022年2月14日 18時) (レス) id: c86e5730cc (このIDを非表示/違反報告)
お塩(プロフ) - ゆぃさん» ゆぃさんへ、お潤くんにならストーキングされてもなんのそのですね！今度本気でやばい方の書いてみようかなとか(笑) (2022年2月14日 18時) (レス) id: c86e5730cc (このIDを非表示/違反報告)
お塩(プロフ) - いくさん» いくさんへ。わぁぁそんな楽しんでいただけるなんて嬉しいですありがとうございます！！基本やっぱりハッピーエンドがイイですよね、まだまだここ増やしていきますのでこれからもぜひお付き合いください！ (2022年2月14日 18時) (レス) id: c86e5730cc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：お塩
| 作成日時：2021年11月2日 0時
