ここは現実 ページ10
呼ばれた名前はAが産まれた時からずっと付き合っている自分の名前なのに、びっくりするほど他人事に聞こえた。
ちょっと耳からの破壊力が凄いんじゃないか。これがイケメンの破壊力‥‥と思わず膝をつきたくなるのを耐える。
「松本さんは、もうちょっとほんと考えた方が良いと思う」
『え、え? 何の話?』
「なんでもない。でも、お言葉に甘えて良いんです?」
『甘えて良いんです』
いたずらめかしてそう言うと、松本も同じような口調とテンションで返してくる。
現状は相変わらず理解しがたいが、きっと断りを入れさせようともしない松本に、またAは笑ってしまった。
風が花びらを揺らしても、まだ散らない程度に開いた桜たち。しばらく雨の予報も無い春のひとこま。見上げた夜空はうっすらと曇って、月がその光を雲に反射させている。
もう少しだけ。
家に着くまでの、もう少しだけをこのまま話していたいなぁと、帰り道を行くAの歩調はわずかにゆっくりになっていた。
『着いた?」
「着いた着いた、今部屋に入ったよ。ほんと最後まで話してくれてありがとう」
『Aさん明日も仕事だろ、早めに寝なさいよ』
「はーい、松本さんお母さんみたい」
程よく酔いは覚めたけれど、まだもうちょっと酔っ払いでいたい。この空気を壊したくない。
上着を脱いで、部屋の明かりをつけて、荷物は定位置へ。
『そこはお父さんでしょうが』
「お父さんは二宮さんかなって」
楽しい夜の空気が部屋の中にまで入り込んでいるようで。軽やかなステップのような足取りでソファに座り込む。
『どんな家族だ』
「ちなみにお姉さんは大野さんです」
『待って家族構成が怖いからやめて』
松本の反応に思わず笑いながら、Aはようやくひとつ息を吐く。
「ありがとう、‥それじゃあそろそろ」
『ん? ああ‥、じゃあそろそろ』
「ありがとう、おやすみなさい松本さん」
『おやすみ、Aさん』
そのまま通話を切って、Aは激しく悶絶する。
あの嵐の松本潤が、名前を呼んだ!? また!? とプチパニックだ。
松本潤から名前を呼ばれる破壊力は本当に凄い。これはすごい。もう何の話をしていたのかも思い出せない。決して酔っぱらっていたからとかじゃない、決して。
Aは知らず熱くなった自分の頬をぺちぺちと叩いた。
ここは現実だぞ、と自分に言い聞かせるような強さで。
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お塩(プロフ) - ゆぃさん» ゆぃさん、一気読み疲れないですか?今後どんどん長くなる上に、どんどん何なのこの人たちってなるので(笑)ありがとうございますー! (2021年10月3日 19時) (レス) id: c86e5730cc (このIDを非表示/違反報告)
ゆぃ(プロフ) - 小出しもいいけど、一気に読めると尚嬉しいから 一気に出しても大丈夫ですよ~♪ (2021年10月3日 13時) (レス) @page29 id: 7a81be16ec (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:お塩 | 作成日時:2021年9月29日 1時