四面楚歌【文スト短編集】

ドＳすぎるＡさんに勉強を教えてもらうだけ。 ページ2

や っ た ぜ 。
Ａさんの口調が迷子。
−−−−−−−−−−−
「…まだここも解けないのか？」
呆れたような目で睨まれる。
『解け、ません』
震える声で答えた。教えてくれるのは嬉しいんだけど、教えられても出来なかった時が…怖い。
「…さっき教えただろう」
『…はい、でも出来な』
出来ないです、と云う前に殴られる。一体何回目だろうか。嗚呼、頭が痛む。
痛みに耐えきれず頭を抱えて床に倒れ込むと、その頭を踏まれる。再び走る激痛に、声にならない悲鳴を発する。
…それでもまだ嫌いになれなかった。
「何か云うことは？」
『ごめんｯ、なさ、い』
泣き乍云うので呼吸がしにくかった。
「…立て。もう一度教えてやる」
…これだから嫌いになれない。結局最後には教えてくれるし、解けたらちゃんと褒めてくれる。

『あのｯ、ここ…やっぱり、わかんない…です』
殴られるのは解っている。それでも聞いてしまう私は、所謂Mという奴なのだろうか。
「そうか」
わざとらしい大きな溜め息をつかれた。
あ、もうすぐ殴られるな、なんていうのがもう解ってきていたけど、恐怖心だけは消えなかった。
今度は足を思いきり蹴られた。痛い。立つのが辛い。苦しい。
でも立たなければ。
机に体重をかけて、ゆっくりと立ち上がる。膝ががくがくと震えた。
でも、優しくされてしまったらもう痛みなんて感じなかった。なんて可笑しな話だろう。
蹴られても踏まれても殴られても、絶対に骨は折れなかったし、目立つ外傷は全く無かった。
そこも良心なのかな、なんて考えていたら説明してもらっているのを完全に聞き逃してしまった。
必死で自力で解こうとするが、同じ間違った答えしか出ない。云うしかなさそうだ。
『説明をよく聞いていなくて…もう一度教えてください』
なんて馬鹿なんだろう。聞いていなかったことなど云う必要もないのに。
「…許すとでも？」
『ごめんなさい、本当にごめｯ…!?』
手首に激痛が走る。それが何を意味しているか知りながら、手首を見る。直角に突き刺さっているのはナイフだろう。おびただしい程の血が溢れている。
顔が真っ青になる。
『あ、Ａさｯ、痛、ああああああっ!?』
「…人の話も聞けないのか、お前は。」
突き刺さったナイフで肉を抉られる。
私の頭の中は真っ白になった。
あまりの痛さに薄れる意識の中、笑顔の彼を私は確かに見た。


−−−−−−−−−−−
なにこれ…。私変態かよ。
Ａさんに踏まれたい。
あ、私変態だ。

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