シガーキス【半間修二】 ページ19
煙がかかったように霞んで見える月
霧から垣間見える月が美しい夜だった
「月がキレイ……」
彼女はベランダで一服しながら月に見とれていた
「Aが一服なんざ…珍しいコトもあるもんだな」
背後から声をかけた彼は珍しいと言わんばかりに少し驚いていた
「気晴らしに…久々に吸ってる」
振り返った彼女は返事をした
「ってか、いつの間に帰ってたの？」
声をかけられるまで気配に気づかなかった
「今さっき帰ってきた」
先ほど帰宅した様子だった
「そっか…。おかえり」
「ん。ただいま」
彼女の頭を優しく撫でた彼はそのまま隣に移動した
「タバコもたまにはいいね。
苦い味も…美味しくてクセになりそう」
彼女は箱から2本目を取り出そうとしていた
「あんま勧めねェけどな」
本音はあまり彼女に吸ってほしくはなかった
「女だって酒は飲むしタバコだって吸うよ」
ひと息つくのに性別は関係なかった
「オレも一服する。A。火、分けて」
彼も吸うと言って彼女から煙草の火をねだった
「いいよ」
返事をした彼女は煙草をくわえたまま彼に顔を近づけた
「ん。ありがと」
互いの距離を縮めては息を吸い込んで火を付けた
シガーキスは間接キスに似た感覚を味わうことができる行為であった
それ故に相手との関係性を深める事ができた
「A。今日もおつかれ」
煙を吐いた彼は隣の彼女に労いの言葉をかけた
「ありがとう。修二もお疲れ様」
それに対して彼女も微笑んで告げた
「あぁ。なんか今日はひどく疲れた」
常に死と隣合わせの裏社会で生きるのは、決して
「大人になってから…たまに思うんだよね」
彼女は伏し目がちで次の言葉を放った
「学生に戻りたい。って」
成人すると誰もが1度は思うことであった
「……タイムリープってやつか？」
「あー……そういう表現の仕方もあるね」
タイムスリップ等と似たような類語であった
「さっきと言ってることが矛盾しちゃうけどさ…」
少し躊躇いながらも彼女は話を続けた
「過去に戻ってやり直すのもいいけど。
でもそれは…自分的になんか違う気がする」
腑に落ちない様子だった
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作者名：おりたん | 作成日時：2022年11月13日 21時
