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__屋上
「ふぅ…」
と息を吸い込んで、はく。
たったそれだけの動作なのに、正直疲れる。
「ふぁぁ…」
とあくびをしながら、フェンス越しに外の景色を見てみる__といっても、花壇と教師たちが止めている車しか見るところがないのだけれど。
「体育館にはいかないのか?」
唐突に、男の声が聞こえた。
「ええ」
驚くそぶりを見せずに、かるく言葉を返す。
今日は入学式だ。
生徒がいないとなれば、教師の一人や二人探しにくるだろう。
おそらくは、この男も教師だろう。
どうせ連れていかれると思い、頭の中の話題を変えた。
「今日はいい天気ね」
「そうだな」
…あっさり話にのった。
男の顔を見ないまま、続けて会話の話題を探す。
__必要はなかった。
この男が沈黙を破ったのだ。
「立花莉都華さん、わたしが今日から君のクラスの担任になる神崎虚海だ、これからよろしく」
「よろしく」
顔をあげて神崎嘘海とかいう男の顔を見れば、一瞬驚いた。
なぜかって?
神崎の容姿が、まるでフランス人形だ、と思うくらい異常に整った顔をしていたから。
短い黒髪に、シャープな輪郭。青い瞳。がたいもよく、背も高い。
「ふふ、先生、モテるから逃げてきたんでしょう?」
どうくいつくか。
この質問の答え方によって、どんな人間かわかる。
「まったくもってその通りだ、やれやれ…」
「ふふふふっ」
この男、なかなかやる。
「君もモテるから逃げてきたんだろう?」
「いいえ、そんな」
「では?」
「モッテモテのモテモテだから逃げてきたんです」
「ふっ、そうか」
神崎は、かるく鼻で笑った後、続けてこう言った。
「寒くないか?」
「え」
「まだ四月だ、このままここにいたら風をひいてしまう」
この言葉は、私をつれていくつもりの言葉だ。
この男は、やはりほかの教師たちと同じ__
「これだけ着ておきなさい、いくらでもいていいから」
そういって、神崎はスーツの上着を脱いで私の肩にかけた。
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作者名:aoi | 作成日時:2020年5月29日 21時