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ホテルの廊下に誰かの足音が響いて、私は我に返った。
「と、とにかく。今日はもう帰って。
おやすみ！」
二宮くんが唇をとがらせる。
「意外と冷静だったか、つまんない」
「つまんないって」
「弱味につけこもうと思ったのに」
そんな毒を吐いても。
二宮くんが優しいことくらいもうわかってる。
悔しいから言わないけど。
「おやすみー」
手をひらひら振りながら去っていく猫背の背中に、ありがとうって呟く。
いつも心が軽くなる。
二宮くんがいてくれてよかったと思う。
「思うけど。
急に色気出すのやめてほしい……」
『もっと』
『混乱しちゃえよ』
一瞬で空気が変わる。
部屋に入ると、ベッドにぼすんと倒れこんだ。
メイク落として、シャワー浴びないと。
そう思いながら私は枕に顔をうずめたまま、スイッチが切れたみたいに動けずにいた。
・
翌日は、私が一人で大学をまわって映画の宣伝をすることになっていた。
まだあまり櫻井さんと話したことがきちんと整理できていなかったので顔を合わせずに済んで、なんとなくホッとした。
大阪の大学を効率よくまわると、お昼過ぎには京都まで足を伸ばす。
どの大学もチラシを置いたり学園祭で予告を流すことに思っていたより好意的だった。
「では、よろしくお願いします」
学生課の担当者に頭を下げて大学を出ようとすると、すみません、と呼び止められた。
振り向くとこの大学の学生さんであろう男の子だった。
「あの、AAさんですよね？」
「そうですけど」
「僕この大学の映研で代表をしてます、小宮山といいます。
ちょっと電話出ていただけますか？」
「え、電話って…」
差し出されたスマホを、訳もわからず耳に当てると。
「A？」
智の柔らかい声が響いた。
「智？どうしたの？」
「そこ、おれの出身大学」
言われてみればそうだった。
「関西圏の大学には映研つながりで連絡しといたの。
そしたら今日Aが来るらしいって聞いたから」
「スムーズに話が進んだのは智のおかげだったんだね、ありがとう」
「俺もあの映画の担当だし。
で、本題なんだけど」
「どうしたの？」
「Aに見せたいものがある」
「見せたいもの？」
「うん。小宮山から受け取って」
電話を切ったあと、小宮山くんから渡されたのは一枚のディスクだった。
「何だろう？」
小宮山くんも特に内容については触れず。
智からは。
絶対見て、と言われただけだった。
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作者名：つむ
| 作者ホームページ：
作成日時：2018年1月22日 18時
