続々 ページ9
「いい加減にしてください！俺達をなんだと思っているんですか！」
そう声を荒らげて叫ぶ鯰尾に続き、主は優しく机を叩きながら立ち上がった。
さすがの主も嫌気がさしたのだろう。
鯰尾は主を横目に、彼女に向かって先程から募っていった鬱憤を巻き散らしてやろうと思いたった。
だが、それも虚しく主によって物の見事に先を越されてしまった。
「まったくだよ、珈琲が苦すぎる。僕は甘いほうが好きなのに」
「そうですよ！苦すぎて………え？」
口直しに団子でも食べに行こう、と疑問だらけの鯰尾の袖を引っ張る主は、そのまま出口に向かってすたすたと歩き出した。
ちょっと待ってください、なんて言う彼女の声を背中に受けながら会計もせずに主がドアを開ける。
外の光が差し込んで目がくらんでいると、閉まりかけるドアの隙間から江雪の悲哀にも似た笑い声が聞こえてきたのだった。
「良かったじゃないか」
いつもよりぐったりとして帰ってきた鯰尾に、薬研は本から目を離さずに言ってきた。
まあ主は良くないがな、とも付け足した。
「どういう意味だよー、それ。本当に変な奴らだったんだって」
「だから、良かっただろ」
薬研じゃ話にならない。
そう思って転々と話をしに行くものの、兄弟達や他の刀剣達にも同じような事を言われる始末。
途中で主が歌仙に、飲み物がどうのこうの怒られているのを見かけたが、助ける気にもなれなかった。
こっちは本当に大変だったのに。
荒々しく音を立てながら廊下を歩いていると、いきなり部屋の襖がばんっと大きな音を立てて開いため少しよろけてしまった。
「やあ、なにやら不満そうだねえ」
「に、にっかりさん……！」
ふふふ、と笑っている彼の後ろで、石切丸が手招きをして座っていた。
その手には幣がしっかりと握られている。
何が何だか分からないまま部屋に通され、正座させられた。
向かえ合わせになるよう座り直した石切丸が、険しい顔つきで鯰尾をじっとりと見詰める。暫くして、うん、と頷いたあとはいつもの温顔に戻っていた。
「ああ、良かった良かった」
「ちょっ、石切丸さんまで！もうみんなして何が良かったんだっていうんですか」
口を尖らせた鯰尾に石切丸とにっかりは少し困ったように顔を見合わせる。
そしてその表情のままこちらに顔を向けると、
二人は声を合わせて言った。
「主に守ってもらえて良かったね」
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作者名：ナナリナ | 作成日時：2019年5月10日 18時
