「えんのいと*鯰尾」 ページ7
商店街は人とお金の集まる活気に満ちた場所。
たしか鶴丸さんは驚きに溢れる場所だと言っていた。その通りだ、と鯰尾は目を輝かせながら立ち並ぶ店を見回す。
ここに来るのは初めてではない。もう何度か主の護衛兼、荷物持ちとして訪れている。
周りを警戒しながらも楽しむ鯰尾の横で「物がたくさんあるね」と主がのんびりとした口調で言った。
「そりゃそうですよー。ていうか主さん、いつもそればっかり。他に感想ないんですか?」
「人もたくさんいるね」
「あー、まあそうですね!」
些事にこだわらず寛大でいよう。
鯰尾の十八番である。
それに主の言う通り、ちょうど昼時のためか人が多い。
偵察に自信はある。だが、この主を探すのはどの刀剣達も骨が折れる作業だ。鯰尾でも、以前に主が迷子になった時は相当堪えた。
「もう買い物も済んだ事ですし、さっさと帰りましょうよ!」
主との買い物は楽しいが、こうも人で埋め尽くされていては気が気ではない。
あとは主の返事を待つだけだったが、予期せぬ言葉が降ってきた。
「お久しぶりです!お元気でしたか?」
その声の主は女だった。黒い長い髪を耳に掛けながら首を傾げる。
ふわりと鼻を掠める香水の香りに目眩がした。
主にこんな知り合い、いたかな。
確かめるように主の方へ顔を向けると、主はそれに気づいて鯰尾の頭を優しく撫でた。
「あれ?今日は鯰尾を連れてるんですか?」
意外だ、と言わんばかりの女の表情に、鯰尾は眉を顰めた。
しかし主はずっと無言で鯰尾の頭を撫でているだけ。言い返してくれればいいのに、と鯰尾は口を尖らせて不貞腐れてしまう。
「あの時は本当に驚きましたよね。でも私たち二人で解決出来て良かったです」
主からの返事や反応がないのにも関わらず、女は延々と知りもしない昔話に花を咲かせている。
彼女の随身する江雪は目を伏せたままでこちらを見ようとはしない。
彼女達の温度差が違い過ぎて気味が悪いくらいだった。
人違いなら人違いですって…そう言えば良いのに。いやでも、もしかしたら俺の知らないところで主がこの人と……
うーんと唸る鯰尾をよそに、彼女はどこかを指さしながら声を上げた。
「あ!そうだ!立ち話もなんですから甘味屋、行きましょう。まだお話したいことがあるんです」
すると主はおもむろにその方角へ顔を向けると、いつもの様に優しく微笑みながら漸く口を開かせた。
「鯰尾、行こうか」
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作者名:ナナリナ | 作成日時:2019年5月10日 18時