【刀剣乱舞】呑気に気ままに【審神者】 (ページ6)

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続ページ6

鶯丸が来る数時間前のこと。

この本丸の庭には池が二面あり、その内の赤い橋が架かる大きな池には錦鯉が元気よく泳ぎ回っている。

その鯉を顕現当初から可愛がっているのは三日月宗近で、いつも日の出が出る頃から橋の上で眺めていた。

審神者部屋からちょうどその様子が伺える。だが審神者は庭に背中を向けるような形で座っているため、今日も三日月が池を見ているだろうという認識しかしていない。

漸く書類の整頓を終え、そろそろ朝餉に呼ばれるだろうと立ち上がった時、急に池の方からどぼんと大きな音がした。

「三日月くん落ちちゃったのかな」

しかし、振り返った先にはいたのはその三日月本人であり、審神者に負けず劣らずの笑顔で玉杓子を片手に立っている。

「主。朝餉の仕度が出来たぞ」

「あ、ほんとう？」

そういえば今日の朝餉担当は三日月と歌仙。三日月は池へは行っていないようだった。

じゃあ誰が落ちたんだろう等と考えていると、三日月は何かを察したような口調で「皆は既に大広間に集まっている」と言った。

「はい、おしまい」

簡単に話を締めくくると、主は黒文字の楊枝を器用に使って和菓子を口に運んだ。

「そんな事があったのか」

主も三日月も何食わぬ顔で大広間へ来たため、とうに着席していた鶯丸やほかの刀剣達は知る由もない。

だが鶯丸は何か思う節はあった。

妙に神刀の者達が険しい表情をしていたのはこの所為かもしれない。

「なあ、主。池の中にいるのは本当に錦鯉なのか？」

そう尋ねようと口を開けた時、ぽと、と水が床に落ちるような音がした。
主の方を見るも茶をこぼした様子はなく、和菓子を幸せそうに頬張っている。

それにこの音は主の方からではなく、鶯丸のすぐ後ろから聞こえてくるのだった。

ぽた、ぽた、ぽた………

今の時間帯に風呂へ入る者はいない。
それに髪や身体を濡らしながらここまで来る奴もいない。

なら、一体誰だというのだ。

疑問が渦巻く中で、ふと主や刀剣達の気配、それに生活音まてもが一瞬にしてぷつりと消えた。

ぽとりと落ちる水の音と、

聞き覚えのない童子の「うしろの正面だあれ」という声だけを残して。

主が聞いたものはきっと、何かが落ちた音ではなく、何かが陸へ上がってきた音だったのだろう。