続 ページ15
そこは塵一つない綺麗な物置部屋だった。
たくさんの骨董品が、煤のような黒い埃をかぶった刀を囲うように置かれている。
鮮明な赤色の絨毯を踏みながらその刀の元へ一歩ずつ近寄るにつれ、青江の表情は次第に硬くなっていった。
「大きいねえ……これは大太刀かな」
青江は人差し指で鞘をなぞると家紋のような模様が現れた。
丸い枠の中にぽつんと榊の葉が一枚描かれている、とてもシンプルなものだった。
「ああ……君は無銘の刀だね。けど、自分の名前をしっかり持っている。そうか、とても大切に使われていたんだね」
青江はその刀に微笑みかけると、赤子をあやすような優しい声色で言葉を続けた。
「でもね、もう、その人間は帰ってはこないんだよ」
榊の葉の模様が少し揺れたような気がした。窓のない閉ざされたこの空間に、葉の擦れ合う音が微かだが聞こえてくる。
言葉を途切らせまいと青江が口を開きかけたとき、主がそれを見据えて「綺麗なな髪だね」と呟いた。
「
「君、まさか見えて……」
刀ではない、人間の形をしたそれに、主は視線を向けている。
戸惑う青江をよそに主はそのまま彼との会話を続けた。
「この子ね、青江くんっていうんだけど、黒髪も似合いそうだと思わないかな。濡羽色くんみたいに艶やかな光沢のある黒が良いな」
「あ、でも赤色も似合いそう」とそれからずっと髪色の話題へと話が逸れていった。
しまいには、近くにあった黄色い茶碗を見て「卵の黄身みたい」等と言いながらお腹を鳴らしている。
「朝ご飯は、あ、えっと……朝餉は何派？僕はパン派かなあ」
「彼はパンを知らないと思うよ」
そもそもそういった概念を知らないだろう。ずっとこの部屋に閉じ込められているのだから。
そしていつまでも此処で主人が迎えに来てくれると信じて待っているのだ。
どんなに「来ない」と青江が言おうとも、これからも待ち続けるのだろう。
「僕はパンとお味噌汁の組み合わせがオススメだよ。今度ここに持ってきてあげようか」
刀はゆっくりと首を横に振っていた。
そして静かな声で、もう十分です、と青江と主を交互に見ながら笑った。
「主、もうおいとましよう」
二人が挨拶をして部屋を出ると、ばたん、と音を立てて閉められた扉。
振り返って見てみれば、もうそこは薄汚れた壁が広がっているだけだった。
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作者名：ナナリナ | 作成日時：2019年5月10日 18時
