続 ページ2
一期の気迫にさすがの審神者も圧倒されたのか、うーん、と唸る。先程まで緩みきっていた顔も次第に硬い表情へと変わっていった。
それをチャンスとばかりに一期はやっと訪れた機会に安堵し、「ごほん」とわざとらしく咳払いをしたあと揚々と口を開いた。
「良いですか主殿、五虎退は――――」
「そうだあ!」
だがこの審神者、一枚…いや何十枚も上手であった。本人にこそ別段そういった腹黒い計算は無いものの、呑気なその一声には強力な力があり一期の説教する気力はどこか遠い彼方へと吹き飛ばされてしまった。
なんだなんだなにを閃いたのだと鶯丸が鳴く。
「五虎退くんは雷のこの大きな音が苦手なんだよね」
突然話題を振られ困惑した五虎退だが、なんとか「はい」と声を絞り出す。
「なんだ分かって下さったではないか」と安心したのも束の間。
この主はとんでもない事を口にした。
「ならこの雷の音を一期くんのいびきだと思えば良いんだよ。一期くんのいびきは本丸が揺れるほど大きくて怖いけど、お兄ちゃんのいびきなら五虎退くんへっちゃらだよね」
蜂須賀は一期を見た。彼は口をぱくぱくさせて、ああ…なんて可哀想、ともう本気で同情せざるを得ない。
「な、なんですとっ……それは誠か!」
だとすればなんたる失態。
弟達に手本とならねばならない兄の私がそんな品のないことをしでかしていたなんて……
一期の不安を掻き立てパニックに落とさせるには十分な程、審神者が答えるまでの間が空いてしまっていた。
騒ぎを聞き付けて集まってきた刀剣達も主の言葉を固唾を呑んで待っている。
そして漸く審神者の口が開いたのだ。
「そりゃあもちろん嘘だよ。一期くんはロイヤルスリーピー。大丈夫だよ」
こいつはやばい。ここにいる刀剣の誰もがそう改めて思った。
一期はというと言葉を失っていた。なんにも大丈夫じゃなかった。
控えめに言ってこの御方は我が道を行きすぎてもはや人間ではなく宇宙人なのだろう、とさえ思うほどだった。
SAN値とやらがピンチしたその証拠に膝からがくんと畳に崩れ落ちる。
「おお、ようやく雨がふってきたね。雷は止んだみたい。雷神様は気が済んだのかな」
当の本人は野次馬神の間を器用に潜り抜け、空を見上げながら縁側に出た。
そうして清々しい程の笑顔で言葉を紡ぐ。
「さあて、僕等の野菜が立派に育つように豊作祈願をお願いしようかな、石切丸」
また一振りの犠牲者が出たのだった。
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作者名:ナナリナ | 作成日時:2019年5月10日 18時