「一難去ったが*一期」 ページ1
地を這うような
鈍く鋭い音がした。
「あるじさまぁ……」
五虎退が一匹の虎を抱え、部屋の戸を恐る恐る開けてきた。
その足元には少し震えながらもちょこんと大人しく座る四匹の白虎。
「おや五虎退。どうかしたのかい」
「どれ、茶でも飲むか?」
いち早く彼に気づいたのは近侍の蜂須賀と執務室へまったりしに来たという傍迷惑な鶯丸だった。
「そっ、そのぉ……お外で大きな音が」と言う彼の言葉を覆い隠すように、また部屋の外から耳を揺らすような低い音がした。
「随分主張の激しい雷だね」と呑気に審神者は笑う。そんな主の雰囲気にのまれた二振りが茶を啜り一息置いて話し出す。
「大包平のような喧しさだな」
「大包平云々はさて置き、もうすぐ雨が降る知らせが届いたね主」
「そうだなあ。現世もちょうど梅雨らしいから景趣を変えて正解だった」
「ああ、そういえばおおかね」と語り出そうとした鶯丸の言葉は五虎退の「ふええぇぇえ……っ!」という泣き声により区切りの悪いところで遮られ消滅した。
しかし、本当に呑気で自由な審神者は「大金笛とはまた御利益のありそうな名前だね、どんな笛なのか教えてくれるかな」と穏やかな口調で五虎退の元へ歩き出す。
「吹けば金が落ちてくる、なんて逸話でもあれば僕達は大金持ちになれるね」等と言い乍五虎退の頭を撫で回した。
そこへ痺れを切らした一期一振が障子を蹴破って部屋に入って来た。大きな音を立てて外れた障子は無残な姿へと変貌を遂げることとなった。
「主殿!」鬼の喧騒だ。
そんな彼を見て、壊滅的なまでも呑気な審神者はふふっと柔らかい笑みを零し、「雷が怖いからって障子を壊しちゃいけないよ」と一期が雷が怖くて審神者の元へ来たと勘違いしていた。これには鶯丸も「あれは控えめにいって髭切や三日月よりも酷い」と我らが主をじっとりと見つめた。
そんな交わらない会話を四,五回繰り返してとうとう一期の怒りが限界まで達してしまった。よく耐えたよ、と蜂須賀は遠い目をしていた。
「違います!!私が怖いのではありません!五虎退が雷に怖がっているのです!ほら見てご覧なさい!雷が鳴る毎に小さな身体が跳ね、涙がぽろぽろと零れているではないか!主殿の目は節穴かッッ!!!!」
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作者名:ナナリナ | 作成日時:2019年5月10日 18時