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営業二課の飲み会。いつも盛り上げ役の自分が主役となってしまい、幹事は大変そう。
「俺やるし。」
「いや、丸山さんのおかげで飲みにこれたんですから、座っててください。」
何となく居心地が悪い。誕生日席に座らされ、課長からお褒めの言葉を預り、適当に一言話したら、ようやく自由な時間となった。
「丸山さん、営業一緒にまわらせてください!」
いつの間にか周りに人が集まる。俺の一言で笑顔が広がる。幸せそうに笑ってくれるその笑顔が何よりうれしいなんて、俺も歳取ったんかな。
「ただいま。」
家に戻る。そうやって挨拶した先には、陶芸展の抽選であたったあの一輪挿し。連絡をもらったときは、思わず声をあげた。
「きれい。」
リビングに飾ったその一輪挿しを眺めながら、毎晩一杯傾ける。手を伸ばしても届くことのない夜空の星が、自分の近くまで降りてきてくれた。
いつの間にか自然とその一輪挿しに挨拶するようになって、これはちょっと人にバレたらやばいななんて思いながら、器一つがこんなにも癒やしになることに驚いている。
「陶芸か…」
趣味で行く人は多いと聞く。調べてみると近くにも工房があるみたい。
「こんな都会でどうやって作るんやろう。」
作り方の工程を見ると、様々なことがわかる。電気の釜があるとか、形は工房で作って、あとは地方の釜に持っていくとか。食器なんて日常に溢れているけど、いざ作るとなると仕上がるまでにひと月以上はかかる。大量生産される器の工場の動画なんかも面白くて、気づけば何時間も経っていた。
「そんなに興味があるんやったら行ってみろよ。」
「ん〜…でも一体どこの工房がいいのか…」
「あ、俺、知り合いがおるから頼んだるわ。」
「え、ほんまですか?」
「おん。そもそもその人からあのチケットもらったし。」
村上さんの人脈には驚かされる。俺もそこそこ顔は広いけど、分野が多岐にわたってるのはやっぱりすごい。
数日後、比較的近くにある工房を紹介してもらった。陶芸体験ができて、気に入れば陶芸教室が開講されているので通うこともできるらしい。
連絡を取ると必要なものがメールで送られてきた。あれ、よく考えたら、あの一輪挿しが気に入ったというだけで、俺には美的センスなんかない。体験に一人で行って、恥をかくだけなんじゃ…
「ごちゃごちゃ言うてんと行って来い!」
「はい。」
例のごとく、村上さんに背中を押されて、当日緊張しながら工房に向かった。
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作者名:orange | 作成日時:2022年12月27日 14時