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「あれ、横山さんは?」
「もう帰りましたよ。さ、ほら、タクシーに乗って。」
心地よい車の振動。誰かの肩に頭をおいて、そのまま眠ってしまう。
「丸山さん、起きて。降りますよ。鍵は?」
見慣れたドア。いつものように鍵を開けて、ベッドまで直行やぁ!
「危ない!」
「わ、目がまわるでぇ…」
目を開けると玄関の天井。こけてもーた。
「丸山さん、ちょっと起きて。ほら。」
あれ…天井だけの世界に大倉さんが現れた。
「夢かな…」
「え?」
「大倉さんがいてる。」
手を伸ばして頬にふれる。
「なんかほんまにいてるみたいや。」
優しい瞳が僕を見つめる。次第に近づいて、唇に優しい感触。あれ、僕…
「したかったんでしょ?」
大倉さんの低い声が近くで囁く。夢…?酔っ払って…僕…でも…
「もっと…」
驚いて、でも仕方ないなって顔をして、そして…
「ン…」
触れるだけのキスが深くなって、気持ちよくて、そのまま意識がなくなっていた。
◇
「大倉さん!すみませんでした!!」
朝一番、村上さんから昨日のことで電話をもらい、大慌てで大倉さんに電話をした。
「いいえ。二日酔いとか大丈夫なんですか?」
「それはもう、村上さんから連絡をもらって吹っ飛びました。」
「はは!あんなになるまで飲むなんて、よっぽど楽しかったんですね。」
「まぁ…はい。あの、僕、なにか失礼なことしてません?こんな、飲み過ぎで記憶がないとか、たぶん初めてで…」
「へー!覚えてないんですかぁ?」
「ひぇ!や、やっぱり何かしでかしてますか?そ、その、一体どんな失礼なことを…」
「はははっ!大丈夫ですよ。送っていったらそのまま眠ってしまいました。」
「…それはそれでほんまに失礼しました。ほんと、すみません。」
「いいえ。またゆっくり飲みに行きましょう。今度は記憶をなくなさい程度に。」
「はい。よろしくお願いします。」
はぁ。自己嫌悪。飲み過ぎて記憶ないとか恐ろしすぎる。疲れてたんかな…。ほんまに気をつけよう。
「あ。じゃあ、来週どこかで晩飯。」
「え?」
「晩飯付き合ってください。」
「それは全然…」
「あ!金曜がいいです!」
「えと、はい。大丈夫です。」
「店は任せてください!じゃあ!」
「あ、切れた…。」
あれ。僕がお詫びをしないといけないのに、何か違うことない?…ま、ええか。でも…飲みに行って失敗したのに、また飲みに行くの?ん〜…。ま、ええか。
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作者名:orange | 作成日時:2022年12月27日 14時