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「ありがと。俺が呼んでん。」
オフィスから少し出て、大倉さんはじっと様子をうかがうように僕を見る。
「大丈夫?」
「はい、ありがとうございました。復活です。」
「無理したらあかん。」
肩にそっと置かれる手。田西課長とは違う。優しい手のぬくもり。
「大丈夫です。ほんとに。」
「…わかりました。」
「スマートな対応、流石ですね。」
「え?」
「すごく助かったし、落ち着けました。」
「そう?」
「はい。」
「丸山さんには、ほんまに世話になったから。」
「そんなん…、僕で良ければいつでも聞きますよ。」
「ほんまに?俺も丸山さんの話、いつでも聞きますからね。」
やっぱり優しい。話し方も声も優しくて、胸が熱くなる。
「ありがとう。また、陶芸教室で。」
「そうですね。また連絡します。」
仕事に戻る。ちょっとした約束が胸に明かりを灯す。
「よし。」
切り替えが大事。村上さんから教わったこと。いつも通りに明るく元気にいけばいい。
◇
「せんせー!!」
「あ、丸山さん!」
「やっと来れましたー!」
「やっと会えたわ。随分忙しかったんやなぁ。」
「そうですね…。早く土にさわりたい。」
「ふふ。おいで、いい土があるから。」
安田先生の穏やかな雰囲気に甘えて、だらだらとついていく。
「なんかやつれたんちゃうか?」
そっと頬にふれる先生の手。やっぱり華奢なイメージと違ってがっしりしてる。
「そうかな。特に変わってないような気がしますけど。」
「ちゃんと食べてんの?」
「それは、はい。ヤケ食いです。」
「ははっ!今日は昼も夕飯も俺が作るわ。」
「え!いやいや、先生、そんなんいいですよ。」
「俺、結構料理すんねん。うちの子たちにも作るし、丸山さんもどうぞ。」
「じゃあ、お邪魔します。」
「ふふ。邪魔ちゃうし。」
久しぶりのリラックスした雰囲気。土にさわると気持ちがスッと持っていかれる。
「丸山さん。丸山さん!」
「ん、あ、はい!」
「よく捏ねられてるよ。めっちゃ集中してたね。」
「はは…無でした…」
「もうちょい放っておけばよかった?」
「いえいえ。形もイメージ出来たし、作ってみます。」
「ん。頑張って。」
今日はろくろを使ってチャレンジ。湯呑みがいいなぁ。
土にふれる指。そっと触れるだけで形が変わっていく。心地の良い土の感触を楽しみながら、イメージをふくらませる。
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作者名:orange | 作成日時:2022年12月27日 14時