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それを察してくれたのか、さっと腕を引っ張って課長から離してくれた。
「なんや、お前。」
「なんやって、田西課長に用があったんですけど。」
「営業なら二課に言えよ。うちは手一杯やから。前もそう言うたやろ。」
「でも、課長の力を借りないとなかなか難しくて。」
「ふん…まあ、考えるだけ考えてもええけど。」
「そうですか！やっぱりお願いしてよかった。資料、後ほどお持ちします。」
「ん。あ、でも会議にかけな分からんで。」
「いえ、田西課長に見てもらえるだけで考えた値打ちがありますから。」
「そうか？ほんなら待ってるわ。丸山くん、また。」
「はぃ。」
「課長、よろしくお願いします！」
去っていく田西課長に大倉さんが深く頭を下げた。姿が見えなくなると、俺のことをどこかに引っ張って行く。
「丸山さん、こんなところですみません。でもここならあまり人も来ないから。」
企画部の廊下を通り、あまり人のこないトイレの個室に押し込められて、鍵をかけるように言われる。
「俺もいないほうがいいと思うので行きますけど、何かあったら連絡くださいね。それと、田西課長、仕事はすごいですけど、私生活でいい噂を聞きません。気をつけて。」
「ありがと…ございます…」
声が震えてる。
「丸山さん…。やっぱり開けて。一人にしとかれへん。」
「大丈夫です。すみません。昼終わるし、仕事に行ってください。復活したら顔だしますから。」
「絶対ですよ。」
「はい。」
少し躊躇って、でもくるっと向きを変えて出ていく靴の音。助かった。怖かった。
「ｳｯ…」
あかん。気持ち悪い。誰か…。
『お前の体、ほんまにどうなってんねん…。きれいやで…。愛してる…。』
ざらざらしたごつい手。たくましい腕。体を撫でて、抱きしめて、あんなに愛してくれたのに。
『お前！俺の人生狂わせる気か！？彼女に勘違いされたやんけ！近づくな！！二度と現れんな！』
太い声。怒号。僕が一番嫌いなもの。耳をふさいで首をふる。どれくらいそうしてたのか。ようやく落ち着いて時計を見た。
「よかった…そんなに経ってない。」
そっと扉を開ける。誰もいない。鏡で姿を映す。大丈夫。変なところはない。いつも通り、僕は僕を演じる。
企画部のオフィスを少しのぞくと、大倉さんが社員の人と話してる。
「何かご用ですか？」
声をかけてくれた人に答えようとすると、大倉さんが駆け寄ってきてくれた。
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作者名：orange | 作成日時：2022年12月27日 14時
