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「いい料亭があってね。二課の営業は君のおかげですごい業績じゃないか。羨ましいよ。」
「そんなこと…」
「是非、話を聞かせて…」
どうしたらこの場から逃れられるか必死に考えていると、大きな声が廊下に響く。
「課長！」
「あ？なんだ、村上。」
「実は相談したいことがありまして…」
助かった。
「すみません、私はこれで。」
「お、おい、丸山くん！」
振り返らずに急いでオフィスに戻る。手が震えてる。年上の男は苦手。普通に話す分には平気。でもああやって迫られると昔を思い出す。
『お前なんか都合がええから付き合ってやってたんや。男が男に夢なんか見るな。』
酷い言葉。そして表情。心底愛して、向こうも愛してくれていると思っていた人からの言葉は心臓を抉る。
「優しかったのにな…」
「なにがですか？」
「…ううん。何もない。」
「他のこと考えんといて。」
「ん。ごめん。来て。」
出会いの場に行けば、苦労することなく相手は見つかる。でも僕の心が動くことはない。
「あ！おーい！丸山さん！」
「え？あ…」
営業一課の村上さん。突然声をかけられて驚いたけど、人懐っこい笑顔には何とも言えない安心感がある。
「丸山さん、俺より後の入社やろ？」
「はい。確か2年くらい…」
「ほんなら後輩やな。そやな、マルって呼んでええか？」
「え、あ、はい。」
「マル。お前、危なっかしいから、昼とか俺と食べろ。」
「は？」
「この前も課長に捕まっとったやろ？あいつ、男でも女でも欲しいと思った奴は薬飲ませてでも手に入れるって言われてるんやで。」
「え…」
「あんた、断りすぎてるから今回は行かなあかんとか思ってたんちゃうか？」
「あ、はい。」
「課長のよく使う手やから気をつけろ。とにかくしばらく近づくな。わかったか？」
止まることなく話が進む。僕が頷くのを見てようやく満足したのか、クリクリの瞳が得意そうに見つめてくる。
「すごいやろ？」
あんまり自信満々に言われるので、何に対してすごいのか理解できないまま、勢いに押されて素直に頷く。
「そうやろ！ずっと気になっとってん。あんた、不器用やけどめちゃくちゃ努力家やし…」
「え…」
「きちんと成果上げるし、営業のときの明るい感じが好感もてるし…」
「あ、あの、ありがとうございます。でも、そんな全然…」
「ほんでも、なんやめっちゃ危なっかしいねんなぁ。」
「危なっかしい…？」
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作者名：orange | 作成日時：2022年12月27日 14時
