三十話 ページ32
俺の腕を掴み、カリムさんは無言で歩く。力の強さに気づいていないのか、多少腕に痛みが走るのと同時に俺はカリムさんに声をかける。あくまでも女らしい口調で。
「……カリム様、私は下賤なもの故触ってはいけません」
その無機質なAの声が誰もいない廊下に響き渡る。ぎょっと俺を見たカリムが「ああ、そうだな。すまん」と俺の腕を離した。いつもと違うカリムさんの様子に俺は不思議に思いながらも、目の前の彼は俺のことをじっと見てくる。
まさか、品定めされてる?
ただただ死にそうな顔をしている踊り子としてカリムさんの記憶に残りたくはない。別れるなら笑顔でいた方が好感も持てるだろう。
これ以上なく、綺麗に美人に、目が離せないくらいに、おかしく、Aは妖艶に笑った。
その瞬間、一気にカリムさんの顔が耳まで赤くなる。
ぎょっとしたが面倒ごとに関わりたくはない。取り合えず監視もかねて俺は彼の耳元に口を寄せた。艶のあるべっ甲の飾りがカリムさんに近寄るとともにシャランと可憐な音が鳴った。
「これ、差し上げます」
彼の耳元で極力小さく、手元に握りしめさせたのは保健用の俺の植物達の魔力を詰めたペンダントだ。赤い唇を蠱惑的に上げて猫を被るAの姿に視線を奪われながら、カリムは呆然とAを見ていた。
「それじゃあ、失礼します」
軽く頭を下げ、足早にその場から去る。クンクンと手首の匂いを嗅ぐと、調理場の料理の燻製の匂いがうつっていた、途端に腹の虫が鳴る。
「フロイドに飯でも貰うかなぁ…」
俺の踊り子としての潜入の一日目はこれで幕を閉じた。
*
「ねぇ、Aー。気づいてる〜?」
「何が?」
踊り子専用の別室で俺のベットに巨体な身体を投げ出したフロイドが未だに衣装を身に着けている俺に声をかける。
先ほどからニヤニヤとこちらを見続けるフロイドに、一瞬不意に眉間が寄る。気を間際らせるため手元のお茶を一口飲んだ。
「多分、ラッコちゃん、Aに惚れてるよぉ〜」
「ブッ!!」
口に含んでいたお茶が勢いよく吹き出る。「げっ、ばっちぃ〜」不機嫌にそういうフロイドに一瞬理解が追い付かなかった。
「か、カリムさんが俺を好き?」
「Aじゃなくて、女装してるAがね。勘違いすんなよ」
どこでそんなの分かるんだよ?と問いかけると、
「見た?俺が抱きしめた時のラッコちゃんの顔。明らかに俺に敵意むき出しだったじゃん」
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レオ - とっても面白いです。続きが気になります。 (1月4日 8時) (レス) @page48 id: 8c9a5c91e3 (このIDを非表示/違反報告)
夕闇柳 - たまたま30話見ていてカリムがカルムになっていました。 (11月25日 8時) (レス) @page31 id: a9dd4c9262 (このIDを非表示/違反報告)
ウイ(プロフ) - ふぎょあ、完結されてるんですね…この作品、めちゃ好きです。まだ占ツクにログインしてなかった頃、読みまくってました笑 ねっとり様に届くか分かりませんが、更新、お疲れ様でした。ほんとに本当にこの作品がこれからも大好きです!!!!!! (6月26日 7時) (レス) @page48 id: 154e73901c (このIDを非表示/違反報告)
ねっとり - 雨中猫さん» アカウントを作っていなので急遽この形ですが作者です。コメントありがとうございます。「命に嫌われている」素敵ですよね、番外編でも他の歌とかも書いてみたいので気長に待ってくれると嬉しいです (2022年2月5日 23時) (レス) id: ad0790befa (このIDを非表示/違反報告)
雨中猫 - 主人公ちゃんに命に嫌われている歌ってもらいたいです! (2022年2月4日 19時) (レス) @page27 id: 79b86edfa1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ねっとり | 作成日時:2022年1月20日 16時