俺のマネはこの子だけ

俺の奥さん ページ36

｢簓さん、出番ですよ｣

よっしゃ、いくでー！！


｢お疲れ様です。水です、どうぞ｣

おん、おーきにな。


｢今日も簓さんはすごく面白かったですよ｣

マネちゃんに言われると嬉しいわぁ。



お笑い芸人、白膠木簓のの隣にはいつもマネージャー、柏木Aがいた。
いつもにこにこ笑う彼女は誰から見ても幸せそうだった。


が、そんな幸せそうに笑う彼女は居ない。

お笑い芸人、白膠木簓の隣には誰も居ない。



代わりに、

｢簓、おかえりなさい｣

｢ただいま〜。あー、Aをギュッとしてると癒されるわぁ｣


『白膠木』Aを後ろから大切に抱きしめる白膠木簓がいた。


簓の右手はAから離れると、Aの膨らんだお腹に添えられる。


｢俺、あと少しで親になるんやな｣

Aのお腹には小さな命が宿っていた。
少しの不安と嬉しさを持っているが、そんなことAに言うわけにもいかず……。

だって出産って女の人は命がけでやるんやろ？
これ以上彼女を不安にさせたくないという、簓なりの気づかいだった。
愛おしそうにお腹を撫でる簓の頬に、今度はAが手を添える。


｢そうだよ、あと少しで簓はパパになるんだよ。今はまだお腹の中にいるけど、パパに会いたいって思ってる｣


わかるよ、お母さんだもん。

だから、不安にならなくていいんだよ。


｢そか……そか…｣

自分の小さな不安に気づき、直ぐに消してしまう彼女には一生勝てん。
簓のことを心底愛おしそうに微笑む彼女は既に母の顔をしていた。


｢あんがとな。言葉に出来んくらい、嬉しくて、もう…｣

｢簓が泣いても可愛くないよ｣

｢ちょ！ひどない！？｣

つーんとなりかけた鼻を抑えて、Aの顔を見る。


｢ほら、笑って。簓には笑顔がよく似合うから｣


その顔はとても優しく……


｢……俺の奥さんイケメンすぎるわ。俺が女の子やったら落ちてた｣

くすくすと笑うAに、そのお腹に宿る小さな命。


この幸せを守るために。


これからも頑張っていかんとな。


｢俺、ちゃんとAとこの子守ってくからな｣

｢私も守るよ。だって簓のこと一生マネジメントしてって簓が言ったんだから。……一緒に守って行こうね｣


暖かい体温を抱きしめ、言葉を紡ぐ。




｢なあ、A。俺この子の名前考えたんやけどー｣





彼が父親になるまであと少し。

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