敬称 ページ8
Daigo side.
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漫才劇場の楽屋に着くと、ソファで一人スマホを見ているAさんが目に入った。
『Aさん、おはよ』
「あぁ、永見さん。おはようございます」
どうぞ、と微笑みながら言ってくれたので、素直にAさんの横に腰かける。
「先輩で私のことさん付けなの、ほんまに永見さんだけっすよ」
『だってもう十年以上この呼び方なんやもん、今更変えられへんよ』
「最初に矯正しとくべきやったなぁ」
Aさんは僕よりも一つ歳下だけど、
高校生だった当時からずっとそう呼んでいる。
理由は覚えてないけれど、たぶん雰囲気が大人っぽくてちょっと怖かったんだろう。
『高校の友達とか、まだ会ったりする?』
「全く。卒業と同時に全員の連絡先消したんで」
『うわー、Aさんそういうことしそうやわぁ』
「友達はおったんですけどね普通に」
『何で消したん?』
「たぶん…自分のスマホにこれからほとんど会わへん他人の個人情報入ってんのが怖かったんでしょうね」
『気持ち悪』
「普段センスで勝負してる人のシンプルな“気持ち悪”って言葉、だいぶ胸に刺さりますね」
『Aさんこそ、もう“大吾さん”って呼んでくれへんの?』
高校生のときは、周りの人から下の名前で呼ばれることが多かった。
その下の名前で呼んでくれる人の中に、Aさんもいたはずだ。
「んー、なんやろ…何か、しっくりこうへんのですよね」
『え?』
「大吾、って顔ちゃうんですもん」
『それどういう意味?』
「…いや変な意味じゃなくて変な意味じゃなくて。
永見、って苗字が、妙に合ってるんですよねぇ」
『じゃあ何で高校生のときは大吾さんって呼んでくれてたん?』
「んー…その方が、近くなれる気がして」
『近く?』
「永見さんって高校生のときからセンスあって、独特な雰囲気があって。私にとっては憧れの先輩やったんですよ」
『…そう、やったんや』
Aさんがそんなふうに思ってくれていたなんて、知らなかった。
僕は目立たないし、友達も少なかったし。
別にそれを不満には思っていなかったけれど。
「永見さんって呼んでもよかったんですけど、もっと仲良くなりたい、って。それで、永見さんがお友達に大吾って呼ばれてるんを聞いて、私も、って思ったんです」
『今は、違うんや』
「今は、“永見さん”です」
Aさんは照れ臭そうにそう言った。
それはきっと、“憧れ”の対象が変化したことを意味している。
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ぴの - お返事ありがとうございます!遅くなってしまって申し訳ないです😢えぇほんとですか嬉しいです(T-T)期待しています笑続編も嬉しかったです😢♡これからも更新楽しみにしています☺️頑張ってください! (2022年2月18日 23時) (レス) id: 07f35b63aa (このIDを非表示/違反報告)
哀(プロフ) - ぴのさん» 温かいお言葉をありがとうございます( _ _ )!結末についてはお話できませんが、これからも変わらず読み続けていただけると嬉しいです🤍くるまさんメインの作品についても考えてみようとおもいます。今後ともよろしくお願いいたします! (2022年1月22日 2時) (レス) id: c39e85b81e (このIDを非表示/違反報告)
ぴの - (続き)いつかくるまくんメインの作品も見てみたいです。これからも更新楽しみにしています。頑張ってください。 (2022年1月15日 0時) (レス) id: 07f35b63aa (このIDを非表示/違反報告)
ぴの - 初めまして。いつも楽しんで拝見しています。作中の芸人さんで特別応援してる方はいなかったのですが、主様が書かれるくるまくんが素敵すぎて令ロのことが好きになりました笑。名前の出順的にくるまくんは報われないのかななんて思い少し悲しいです(TT)笑 (2022年1月15日 0時) (レス) id: 07f35b63aa (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:哀 | 作成日時:2021年7月23日 16時