記憶を失った鬼姫

story.25 ページ29

カイラside







Aが記憶を失った





そうエンマから私は聞いた



どうせ、またいつもの悪ふざけだろうと思った







が、エンマの寂しそうに笑う顔を見て私は違和感を覚えた




あんなふうに笑うアイツは初めて見た




いくら歳を重ねても変わらない、

いつもの幼い子供のような笑う無邪気な笑顔ではなかった







エンマは今、どんな思いなんだろうか



どんなに明るくて前向きなアイツでも、今回ばかりは心が折れるのではないだろうか




自分のことよりもエンマにとっては大切な存在だった、A




その存在を失うということはよほど辛いことだろう




だが、どうこう言ったところでアイツを立ち直らせる方法なんて、


私なんかには到底思いつかない



下手に動けば、余計にアイツを苦してしまうかもしれない




私は結局何も出来ず、ただ頭を悩ませるだけだ






気づけば、Aがいる部屋の前に立っていた




扉を開けるのを少々、躊躇った




会ったところで混乱させたりしないだろうか





前に記憶喪失の者に無理やり記憶を思い出させようとすれば、

脳に大きなダメージが残ってしまうということを本で読んだことがある





だが、ここで立ち尽くしてしたところで仕方がない


私は意を決して扉を開けた









部屋に入ると、ベットに座っているAと天野ナツメが目に入った


Aは不思議そうに私を見つめて、誰と聞いてきた


私はその瞬間、雷に打たれたような衝撃を受けた


本当に何も覚えていないのだな



私は平常心を保ち、初めましてだと自己紹介をして
微笑んだ



笑うのは慣れてないからちゃんとできたか？




ああ、きっと笑えていただろう



だって彼女も以前のような笑顔をしているからな








私は少しでも早く彼女の記憶が戻ることを祈る



私に出来ることはこのくらいだからな





そして私は部屋を後にした

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