305号室のユンギくん。

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カゴの中の惣菜を見て、
自炊はしないんですか？なんて、
お節介な言葉が出そうになった。





『んじゃ、帰るか。』

「んぇ！？」

『なんだ？そんなへんな声だして。』

「いや…なんでも…」





一緒のアパートなんだから
一緒に帰って当然なのだが。
ドキッとしてしまったのはなぜだろう。
会計を済ませると、
先に会計を済ませたユンギさんが
出入り口の壁にもたれかかっていた。
慌てて
「お待たせしてすみません」
と言うと
『ん、行こ』
と、歩き出した。





すぐそこ、といっても、
スーパーからは歩いて5分くらい。

駅からだいぶ歩くアパートは、
少し古めの、良く言えばレトロな建物。
レンガ造りの3階建てで、エレベーターなんかなく、
螺旋階段があるだけ。
オートロックや防犯カメラもなくて、
セキュリティのセの字もないけど
昔ながらのご近所付き合いがあるからか、
物騒なことはいままでに一度もない。

ひとり暮らしの物件を探す時、
初めて内覧したのがこのアパートで。
部屋に入った時点で、ピンときた。
全面真っ白な壁なのに、中に入って振り返ると、
夏の青空のような、真っ青な壁が一面だけ。
大家さん曰く、
「前の人が塗ったんだよねぇ。綺麗でしょう？
　そうそう、中は好きにしてもらっていいからね。
　退去の時も元に戻さなくていいから。」
と言っていた。
その真っ青な壁に一目惚れし、即決した。

大家さんは80代のご夫婦で、
近所の平家に住んでいる。
出勤時や帰宅時に会えば
「いってらっしゃい」
「今日もお疲れさま」
と声を掛けてくれる。
実家が遠方でなかなか帰れないわたしにとっては、
こんな些細なことがすごく嬉しくて。
たまに
「息子夫婦がたくさん送ってくれたから食べてね」
と、新鮮な野菜を頂くこともある。
昔ながらの人付き合いというか、
少し憧れみたいなものがあったから、
このアパートに住んでよかったなとしみじみ思う。






「ユンギさんは、お仕事終わりですか？」

『いや、ちょっと息抜き。
　あと腹減ったから。
　また帰ったら少し作業する。』

「作業？」

『あーまぁ、仕事だな。』

「ふぅん…そうなんですね。
　はぁ…地味に3階ってキツイですよね…」





螺旋階段を上がりながら、
上がる息を必死に抑えるも、我慢はできない。






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