305号室のユンギくん。

1 ページ1

.






「え〜…
　またない…」


毎週のようにチェックしてるのに…なんで…





—————————————————————






金曜日、仕事が終わってから寄るところがある。

寂れた商店街には似つかわしくない、
レンタルビデオ店。

金曜の夜からお酒を飲みながら、
少し夜更かしして映画を観るのが1週間の楽しみ。
新作を借りるときもあれば、
何度も見てきた映画を借りることもある。
こんなに好きならネットで見ればいいのに、
と自分でも思うけど、
お店でパッケージを見ながら選ぶのが好きなのだ。






で、今日はお楽しみの金曜の夜なんだけど。
ここ1ヶ月くらい、
ずっと見たかった映画がいつも借りられている。
しかも1本じゃない。
狙っている3本全てがいつもない。
わたしと趣味が合うのね、
なんて呑気なことは言ってられない。
いい加減ムカついてくる。
こんなに待つくらいならネットで探して見たり、
他の店舗に行って借りたらって思うけど
なんか負けた気がして嫌。


今日こそあるだろうと
息巻いてきたわけだけど、
……やっぱない。
だいぶ前の映画だから
そんなに人気ないはずなのに…。
延長してるのかな。
返し忘れてる？
どっちにしてもいつもないんじゃあね…。

仕方なく、その場を立ち去った。
ふたつめとみっつめを見に行こう。

ふたつめは…あ、やっぱりない。
もう、みっつめに賭けるしか……

あ！あった！
これこれ…

手を伸ばした瞬間、
同じように手を伸ばす人と指先が触れてしまった。




「あっ！すみません…」

『や、大丈夫…』

「あ…それ…」

『ん？これ？』




しまった…先に取られた…




『え、もしかして借りたかった？』

「あ、…いや……はい。」

『あ…ごめん…』

「いえ、お先にどうぞ。
　わたし、次来たときに借りるので。」

『じゃあ先借りるな？』

「はい。」

『あー…よく来るの？』

「はい？」

『や、金曜いつもいるから…』

「え…」

『いや、なんでもない、忘れて…
　じゃ、』





ありがとな、と言った男の人は、
わたしが借りたかったやつを持って、
そそくさと立ち去った。
なんだったんだ…。
『いつも金曜いるから』って言われたけど、
いまの人も金曜に来てたのかな。
あぁ！それより映画！
はぁ…また1週間後か……
今日は違うのを借りて帰るか…。






.

2→

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す