126.愚兄 ページ35
薬研.
薬研「神にも、妖にも、人にも愛された大将」
一期「……」
薬研「あのクズとはえらい違いだよな」
縁側に座って月を見上げる一兄にそう言うと気まずそうに目を逸らしてしまう。
……二人目からだった
一兄が兄弟の俺達でさえちゃんと目を合わさなくなったのは。
薬研「いつまで意固地張ってんだ。一兄、お前さんだって本当はわかってんだろ?今の大将は無害だ」
一期「……」
薬研「それともまだ信じられねぇってか?なら殺す機会なんて沢山あった筈だぜ?今なんて絶好の機会じゃねぇか」
今の大将は風邪で弱っている。
眠っているところをぶすり、なんていつでも出来た筈だ。
一期「……違うんだ」
薬研「?」
一期「あの時、主殿の声が聞こえた時、あの光景を思い出してしまったんだ」
薬研「あの光景?」
一期「二人目の審神者が五虎退を手にかけようとしていた光景」
薬研「……」
俺も覚えている。
忘れてはいけない光景だから覚えている。
審神者の声と、五虎退の泣き声。
言霊によって身動きがとれない五虎退を手にかけようとした審神者の顔をいつまでも覚えている。
一期「またあのような光景なのではと思い、無意識に本体を出そうとしていたのだけれど、障子を開けると寝間着を着た主殿と耳が四つある主殿がいて驚いた」
薬研「まぁ、そらそうなるわな」
一期「その光景を見た瞬間、ずっと疑ってた自分が馬鹿らしく思えてきたんだ。愚かだった。この生かされた命はあのお方のおかげなのに……危険だからと弟達を遠ざけて、主人に対して失礼極まりない」
そう言いながら噛み締めるように嗚咽を漏らしながら涙を流す一兄の隣に座る。
薬研「……だとよ、大将」
『っ!』
一期「!」
薬研「盗み聞きするつもりがなかったんならさっさと出て来な」
そう言って、曲がり角からひょこっと顔を出したのは猫又を抱いた申し訳なさそうな表情をする大将で。
一期「主殿……」
『あ!いや!その……本当に盗み聞きをしているつもりはなかったんですよ!?偶々聞こえたというかなんというか……』
薬研「どっから聞いてたんだ?」
『……………………薬研くんのいつまで意固地張ってんだってところからデス』
薬研「もろ初っ端からじゃねぇか」
俺が笑うと大将は苦笑いして頬をかいた。
『あ、でも見ただけで、話の内容は聞かないように耳を塞いでいましたのでご安心ください!』
薬研「そこは聞けや」
.
108人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
戦国娘(プロフ) - 作品楽しみに読んでます!あと、一つ報告が.....一護ではなく一期一振というので正しくは一期です!! (2020年1月20日 0時) (レス) id: 008b2d0f5c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:冬雪 | 作成日時:2019年6月15日 0時