55.影片みか ページ7
影片.
プロデューサーが来てから俺の周りは動き出した。
人も環境も学科も全て。たった一人の女の子だけでこんなにも日常は刺激的になるのだろうか。
小さな背丈、細い手足、ガラス玉みたいな綺麗な瞳に少し動いただけでも揺れる髪。まるで人形。実際プロデューサーは人形みたいに表情が変わらない。
……でも、誰でも良かったんじゃないか？
可愛ければ誰でも良いんじゃないか？優しければ誰でもいいんじゃないか？働いてくれれば誰でもいいんじゃないか？
「……プロデューサーって可哀想やなぁ」
「どうしたの？薮から棒に」
「転校生の子、今は周りにチヤホヤされてるやろうけど時間が経てばみんな飽きてしまうんとちゃう？あの子は独りになってしまうんとちゃうか？」
俺がそう言うとなるちゃんは目を張った。
可笑しな事言っただろうか、と首を傾げると微笑ましいと言わんばかりに頬を緩ます。
「本当に薮から棒ね」
「なんでや？」
「だって今まであの子のこと、敵や敵やって言ってたのに」
「たしかにせやけど……でも可哀想な時だってあるやん」
「みかちゃんは優しいわねぇ。でも誰もがあの子に飽きるなんてことないと思うけど」
「そんなんわからんやん」
「わからないけれど……あの子はみかちゃんが思っているよりもメンタルが超合金で作られているんじゃないかってくらい強いしどうしようもないくらい優しいから」
なるちゃんは窓の外を見て視線を落とす。
その視線を追えばプロデューサーが歩いていた。
ぼうっとしているのか上を向きながら歩いている。あれでは転んでしまうのではないかとハラハラしてしまう。
「いつかみんな気づくわよ」
「え？」
「Aちゃんじゃないとダメなんだ、って」
「あの子じゃないと、ダメ？」
「まぁ人間、過ちを犯してやっと気づいて後悔する事が多いじゃない？」
「なるちゃん……」
なるちゃんの悟ったような顔。
もう何度も見てきた。そうか、またなんやね、なるちゃん。
「また体重が増え」
「皆まで言わないで！！」
「でもなるちゃん太っとらんよ？」
「みかちゃんまでそんなこと言う！そうやってアタシを甘やかすのもいい加減にしてちょうだい！」
プンスカと怒ったなるちゃんは教室から出て行ってしまった。
俺はもう一度窓の外を見下ろすとプロデューサーと目が合った。プロデューサーは大きく手を振るが俺はそれに応えずすぐに視線を逸らした。
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作者名：冬雪
| 作成日時：2019年4月17日 23時
