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「授業が始まっちゃうよ」
「わかってる…」
翼は栄養不足──つまり人間の血液不足で貧血に陥っていた。いつものことだった。
だが、今回のそれはいつものと違い、いくら休んでも楽にならなかった。
少しの間は、何事もなく過ごせていた。結城との仲もそれなりに良くなったし、クラスメイトとも話せるようになってきた。ほとんど身体に問題はなかった。
だが、翼は今日ふいに体調不良に襲われた。
翼は目眩と吐き気に顔を歪めながら言った。
「いつもは少し寝れば治ったのに…」
アオはため息をつく。
「もう限界、ってことなんじゃないの。俺たち成長期だよ?これからはもう、血を飲みたくないなんて通用しないって」
「………でも」
「もう!仕方ないだろ。自然の摂理ってやつだよ。俺らは人間の血なしじゃ生きられない。人間だって他の動物の命を喰らってる。同じだ。一体何が罪なんだよ」
「……」
「…心配する俺や翼の家族の身にもなってよ」
「………ごめん」
アオはあきれて言った。
「ま、翼が頑固なのは知ってたけど。待ってて、俺血液ストックしてあるから。それで凌ぎなよ」
「……うん」
「やっぱり飲めないとか言わないでよ?今取ってくるから」
「ごめん。お前まで、授業に遅れちゃう…」
「言い訳くらいどうにでもなるよ。いいから待ってて」
そう言うとアオは屋上のドアを勢い良く開け、階段を下りていった。
静まりかえった屋上で、翼は呟く。
「……最悪だ」
最悪も最悪。
わかっている。昔から周りに迷惑をかけてばかりだった。
自分が人間の血を飲みたくないばかりに、家族や一番の友達にずっと心配をかけてきた。
(でも嫌だったんだ。誰かの命なしには生きられないこの身体が。この身体は俺だけのものなのに、どうして他者の血潮に生かされないといけないんだろう)
その時、ガチャリと屋上のドアが開いた。
アオが戻ってきたのかと思いきや、予想外の声がした。
「──的場?」
ドアを開けたのは、結城だった。
「結、城…」
「っおい、大丈夫か!?」
結城は慌てて翼に駆け寄った。
(…俺、そんなに、顔色悪いのかな)
「今…アオが先生呼びに言ってくれたから…」
嘘だ。血液を取りに行っただけだ。
「そ、そっか。でも本当に大丈夫か?ひどい顔色だ」
「…貧血持ちだから、慣れてる。結城こそ、授業に遅れるんじゃ…」
「っ、まあ、そうなんだけどさ…」
結城は歯切れが悪かった。
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作者名:ぺぺこ | 作成日時:2019年8月21日 4時