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短髪男子の言葉で翼が動き始めたことにより、男子も女子も意識が調理の方に向いたようだった。不純な動機とはいえ皆がちゃんと作業を始めたのだ。
まな板の上で鶏肉の繊維と格闘しながら、翼はこっそり感心していた。
｢あの男、やるな」
実際、彼は班の中心となっていた。
｢結城。小麦粉ってどのくらいだっけ」
｢大さじ3杯」
｢結城〜。じゃがいもってどう切ればいい？」
｢四分の一にしとけばいいよ」
どうやら彼は結城というらしい。
結城は男子にしては珍しく、翼を目の敵にすることはなかった。転校生だからと特別扱いもせず、ごく普通に話しかけてくる。
｢的場って、不器用だな。切った肉の大きさがバラバラだ」
吸血鬼が鶏肉など切ったことがあるわけがない。
｢ご、ごめん」
結城は笑う。
｢はは、別にいいよ。味は大差ないし」
｢結城は料理が得意なのか？」
｢まあまあかな」
｢すごいな」
翼が素直に言うと、結城は目をぱちくりとさせてから言った。
｢それ、お前が言う？」
｢えっ？」
結城の言葉の意味がよくわからず翼が戸惑っていると、別の班のアオがこちらにやってきた。
｢おーい、翼。どう？上手くやってる？」
｢ああ、アオ」
｢…んん？」
アオは、翼と結城を交互にきょろきょろと見て言った。
｢おお、早速友達ができたの？よかった！」
｢別にそういう訳じゃ…」
翼が否定する前に、アオが結城に言った。
｢ねえ、良かったら翼と仲良くしてやって。翼、友達少ないから」
｢そうなのか？」
結城に聞かれ、翼はうっと言葉に詰まった。
｢い、いや…ちょっと人を選びすぎるだけっていうか…」
アオが結城に言う。
｢翼ってこんなだけど、けっこう面白いやつだからさ。味が出るまで時間がかかるだけで」
結城がほう、と腕を組む。
｢じゃあ、じっくり煮込んでやればいい訳か」
｢そうそう！シチューみたいにね！」
｢………だれが生煮えだ」
自分をシチューに例えられていたたまれなくなった翼は、アオを追い払った。
｢アオ、もう戻れよ。班の女子が待ってるぞ」
｢はいはい。じゃあね、頑張って〜」
｢からかいに来ただけかよ！」
蝶が飛び去るような軽さで、アオは自分の班に戻っていった。
｢あいつ、勝手なこと言って」
翼は、時折アオの自由奔放さが羨ましくなる。
結城は、そんな翼に言った。
｢的場って、倉野と仲いいのな」
｢えっ…まあ、幼なじみだし」
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作者名：ぺぺこ | 作成日時：2019年8月21日 4時
