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「うぅ…」
目の前が白黒にちかちかして、翼は今にも倒れそうだった。それでも醜態を晒すまいと、彼は自分の身体を懸命に支えていた。
この顔面蒼白な男、実は吸血鬼である。
しかし、人間の血が飲めないのだ。
なぜなら…
「あーーー!!翼!やっと見つけた。まーたそんなに青い顔して」
マジで倒れる五秒前というタイミングで翼の横にやって来て彼を支えたのは、青い髪と瞳の美少年、アオだ。同じく吸血鬼の男である。
アオは翼に心配そうに声をかけた。
「翼。いくら優しいからって、人間の血を吸わずに過ごすなんてダメだよ!不老不死のはずの吸血鬼が餓え死になんて、千年は笑い者だよ!」
「で…でも申し訳なくて…。血は人間の命の源だろ。そんな大切なものを貰うなんてさ…」
そう、翼は何を隠そう、血を飲んだことがない吸血鬼である。もはや吸血鬼ではなく拒血鬼だ。
翼は今までの食事は全て、血っぽい赤いもので誤魔化してきた。ワインやトマトジュース、果てはデスソースまで。赤けりゃ何でもいいというイカれた精神で食らい(飲み?)続けてきたが、こんなにクレイジーなベジタリアン吸血鬼は歴史上他にいないだろう。泣きながらデスソースを飲む息子を見た翼の母親は「せめてピザソースにして」と何度も泣きついたが無駄だった。
アオは急いでポケットから赤い錠剤を取りだし、翼の口に突っ込んだ。直後にペットボトルの水も無理やり飲ませた。
げほげほとむせた翼が訊く。
「なにこれ」
「ファ●チ」
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「人間ビタミン値0、吸血ミネラル値0.001、ヘモグロビン脂質0.2。ヴァンパイア指数は0.00001。あなた、どんな食生活を送っているんですか?」
吸血鬼は15歳になると健康診断を行う。戸籍を持つ吸血鬼は全員診断をする決まりである。
翼は検査を担当した看護師に、理解しがたいものを見る目を向けられた。
「どうやったらこんなに不健康になるんですか」
「…血を飲んだことがないんです」
「はっ?」
これは、『日本人であるのに米を食べたことない』というレベルの話ではない。
人間にも分かりやすく言えば、『生まれてから一度も息してない』とか、その位の発言である。
吸血鬼はふつう赤ん坊のうちは母親の乳を飲むが、物心がつけば人間の血を吸うものである。離乳食用の血液などが、スーパーで普通に販売されている世界なのだ。
ただし、翼は違った。
幼き頃から人間の血を貪り飲む両親を見て育ち、人間に憐れみを覚えたのだ。
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作者名:ぺぺこ | 作成日時:2019年8月21日 4時