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ビター・バレンタイン ページ12

梅野は憂鬱だった。
(学校、行きたくない…)
今朝は体調が悪く、瑞季の作った朝食が喉を通らなかった。
そんな弟の様子を見た瑞希が、気遣わしげに言った。
「ねえ、無理して学校に行かなくてもいいんだよ。…昔あんなに嫌な思いをしているんだから」
瑞希は、可愛い自分の弟にとって、バレンタインが最悪のイベントであることを知っている。
彼がいじめに遭い、さんざん手紙や電話などの嫌がらせを受けたこと。そのせいで体調をひどく壊し、しばらく休学をしたこと。──その全てを見てきたのだから。
「いいんだ。中学の時の知り合いは今のクラスにいないから、僕の昔のことを知ってる人はいないはずだし。…気にして引きずっていても、振り回されるばかりだから」
梅野は、高校に入学してからは極力目立つ振る舞いを避けていた。
別れた元彼女に仕返しされたのだって、自分に原因があったからだと考え、生意気だと思われそうな言動は慎んでいた。
「そう。わかったよ。…でも、何かあったら言ってね」
瑞季は無理に止める気はないようだった。
「うん」
梅野は頷き、気を引き締めてカレンダーを見つめた。
二月十四日。
(こんな日、きらいだ)
──こんな今日は、早く終わってしまえばいいのに。
梅野はそんなことを思いながら、コートを羽織って家を出た。

#

学校に着くと、真っピンクとは言わないまでも、学校中がどこか浮き足だって感じられた。
梅野の耳に、廊下ですれ違った生徒たちの言葉が色々と入ってきた。

「××先輩にチョコ、あげようと思って」
「あーあ。今年はチョコ欲しいなー。誰かくれねーかな」
「手作りなんだけど、引かれないかな…」

(馬鹿みたい)
浮き足だっている周りが、ではない。
自分自身が、である。
(どうして、みんなが楽しいと思う日に僕は怯えているんだろう。どうして女子のチョコを怖がらなくちゃいけないんだろう…)
クラスメイトの悪口と比例してなぜか増えた、バレンタインの自分宛のチョコレートとラブレター。手紙に綴られた思いの重いことこの上無く、偏執的で恐ろしかった。
妙に甘い香りのチョコの包み紙も、髪の毛の混ざったチョコレートも、恐ろしかった。だから梅野は中学時代、もらったチョコレートを一つも食べていない。
女子からの手紙には、「好きです」の文字ばかりだった。梅野は思い出して目眩がしてきた。
(僕のことを大して知らないくせに。何がそんなに好きだって言うんだよ…)

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すらいみーる@元もちづき(プロフ) - 以前からぺぺこさんの作品を読ませて頂いているのですが、すごくおもしろくて更新とても楽しみにしてます!!!これからもぺぺこさんの一ファンとして応援してます! (2018年9月11日 23時) (レス) id: 3b52443fef (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ぺぺこ | 作成日時:2018年4月14日 21時

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