同じ歩幅で ページ46
…少し前までの私は、晋助のことを考えると酷く悲しい気持ちになったり、焦燥感が何処からともなく沸いてきたり。そんな感覚を覚えていた。けれど今は、もうそんなことを思うことも、そんな感覚に苛まれることもない。どうしようもなく泣きたくなる衝動も、それを堪えるために強がりの仮面を被って無理矢理に笑うこともない。それは多分、成長と呼んでもいいのだと思う。きっと一歩でも二歩でも、たった数センチだったとしても、前に進めたということなのかもしれない。足踏みしているだけのように思えていた自分の足が、確かに前へと歩いているという手応えのようなものを、ちゃんと感じられていた。そのおかげか、周りのことも、よく見えるようになってきたような気がする。見える世界が、なんだか違ってきているような気がする。
自分でも不思議だし、うまく説明することは難しいけれど、大事なことを。目にするべきものを。しっかりと見つめることが出来るようになった、そんな気がしている。今までで失ったものは変わらないし、これからも私は何かを少しずつ失いながら、何かをすり減らしながら、それによって下を向くこともあるのだろう。地面に膝をつくこともあるのだろう。それでも。
それでも、手を引いてくれる人が居るから。手を伸ばしてくれる人が居るから。私はそれを見落とさないように、何度でも前を向いて歩いていくのだ。
同じように、私も誰かに手を伸ばしながら。
「ねぇねぇ土方さん」
「あ?」
「手繋ぎましょうよ」
「……は?」
なんだかそんな気分になったので、右手を土方さんに差し出してそう提案してみると、彼はポカンとして口を間抜けたように開けてから、我に返ったように「馬鹿か」と。
「勤務中だ、んなことしてられるか」
「えー、いいじゃないですかぁ、私迷子になっちゃうかもですよ」
「ガキか」
「ガキでもいいですもーん」
眉を中心に寄せては私を呆れたように見る土方さんだけれど、満更でもないことは分かっているのだ。それに。
彼と恋人になってからたまにあることなのだけれど、理由もなく触れたくなる。けれどそんな恥ずかしいことは、口が割けても言えないのだけれど。
「ね?お願いです」
「…はぁ…、…あそこの電柱までだぞ」
と、土方さんは前方10メートルほど先に立っている電柱を指差してはそう言って、差し出された私の手を取ってくれた。勤務中だとかなんとか言っていたわりに、ちゃんと繋いでくれるから、ついつい顔が緩んでしまう。
「素直じゃないなぁ」
「黙れ」
歩いていく。同じ歩幅で。ゆっくりと。
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Karin(プロフ) - この作品が好きすぎてもう4回ぐらい読み返してます。とっても面白くて、感動的で、大好きな作品です!銀魂のedにも使われていた桜音という曲を聴いた時に、この作品の高杉と主人公のことみたいだなぁと感じました。高杉と恋仲だった頃の話も見てみたくなりました笑 (8月4日 19時) (レス) id: 9e7f4b97d1 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ミウラさん» ありがとうございます!こんなご時世ですので暇をもて余すこともあるかと思いますが、私の作品なんかで良ければ読んでやってください!! (2020年5月9日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - ピピコさん» 嬉しいです!楽しみに待ってます(o^^o)その間ピピコさんの小説何度も読み返しますね笑 (2020年5月9日 21時) (レス) id: 3103cb23ea (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ミウラさん» ミウラさん!ありがとうございます…!!最後まで読んでくださり感謝です…!!高杉さんが出てくるシーンは本当に難しかったです…自分でも書いててしんどかった…!!高杉さんのお話もそのうち書きたいなぁと思っていますのでお楽しみに(o^−^o) (2020年5月9日 19時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - 一気に全巻読めちゃうくらい面白かったです!晋助様のシーンがしんどすぎてずっと泣いてました…笑次は晋助様落ちの小説も書いて欲しいです! (2020年5月9日 8時) (レス) id: 3103cb23ea (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2018年6月14日 19時