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とても足りなくて ページ40

…本当にいいのか、なんて。そんなこと、聞く必要はないのに。彼が不安になることなんて何もないのに。それでも彼がそう私に問い掛けるのは、彼の優しさや、他にもきっと色んな理由があって、その中には弱さもあるのだろう。その弱さすら優しさ故のもので、私のことを想ってくれるが故のものなのだろう。彼のことを見ていれば、分かる。彼のことだから、もう心配することなんてないような事柄まで気にして、自分のこと、私に関わる人達のこと、それから、私のことを考えて、躊躇いを抱いているのだろう。もう少しワガママに、自分のことを考えたってバチは当たらないだろうに、彼は、そういう人だから。そういう彼だから、きっとこれまでも、たくさん傷付いてきたのだろうと思う。

人は誰しも、弱さを抱えて生きている。傷付きながらに歩いている。私も彼も、皆も、同じように、弱さを抱えながら歩いては、傷付いている。きっとこれからも、傷つき続ける。それは確かな痛みを伴うもので、歯を食い縛りながらに耐えなければならないものもあるだろう。それでも、歩いていく。私も彼も。


…彼は、私が立ち止まったとき、きっと立ち止まって、名前を呼んで手を伸ばして待っていてくれるだろう。痛む傷を、優しく抱き締めてくれるだろう。これまでもそうしてくれた。だから私は、彼に同じことをしてあげたいのだ。彼の隣で。


そのすべてを伝えるには、理不尽が蔓延るこの世界にある言葉ではとても足りなくて。


…だから、それを少しでもありったけ伝えられるように、私は手を伸ばした。


その手は、彼の着物の襟を掴む。そうしてそれをこちら側に引き寄せて。目を閉じて。


私は土方さんにキスをした。


タバコの味なのか何なのか、ちょっとだけそれは苦かった。彼が驚いているのが気配で分かったけれど、彼が拒絶することはなかった。

そっと、唇を離して、至近距離に居る彼に、小さく呟く。きっと、頬を真っ赤にさせながら、揺れる声で。


「…これでも、まだ信じられないんですか?」


…漸く仕返しができた。彼が私に好きだと言ってくれたとき、信じられなかった私に、うまく受け入れることが出来なかった私に、彼は今の私と同じことをして、それはそれは私を戸惑わせてくれたのだ。

そのうちギャフンと言わせてやると誓っていたのだ。不敵に見えるように笑みを浮かべて、彼を見る。土方さんは呆気に取られたように私の目の前で暫し固まって。それからふ、と笑って。


「……こりゃ、信じざるをえねェな」


そう言っては、私を抱き締めた。

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設定タグ:銀魂 , 土方十四郎 , 真選組、攘夷   
作品ジャンル:アニメ
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Karin(プロフ) - この作品が好きすぎてもう4回ぐらい読み返してます。とっても面白くて、感動的で、大好きな作品です!銀魂のedにも使われていた桜音という曲を聴いた時に、この作品の高杉と主人公のことみたいだなぁと感じました。高杉と恋仲だった頃の話も見てみたくなりました笑 (8月4日 19時) (レス) id: 9e7f4b97d1 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ミウラさん» ありがとうございます!こんなご時世ですので暇をもて余すこともあるかと思いますが、私の作品なんかで良ければ読んでやってください!! (2020年5月9日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - ピピコさん» 嬉しいです!楽しみに待ってます(o^^o)その間ピピコさんの小説何度も読み返しますね笑 (2020年5月9日 21時) (レス) id: 3103cb23ea (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ミウラさん» ミウラさん!ありがとうございます…!!最後まで読んでくださり感謝です…!!高杉さんが出てくるシーンは本当に難しかったです…自分でも書いててしんどかった…!!高杉さんのお話もそのうち書きたいなぁと思っていますのでお楽しみに(o^−^o) (2020年5月9日 19時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - 一気に全巻読めちゃうくらい面白かったです!晋助様のシーンがしんどすぎてずっと泣いてました…笑次は晋助様落ちの小説も書いて欲しいです! (2020年5月9日 8時) (レス) id: 3103cb23ea (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/  
作成日時:2018年6月14日 19時

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