疑惑 ページ32
「……なんでもねェ」
「完全に何でもなくないですよね、何ですかその大量の冷や汗は」
土方さんは彼をじっと興味津々と言った様子で見つめる私からそろーりと視線を逸らしては何もなかったかのように振る舞おうと努力しているようだけれど、平常な状態だとはとても思えないくらいの冷や汗が彼の額には流れていた。いきなりどうしたんだと言いたくなるような噴き出しっぷりに、何でもなくないことが発覚した。これは何かある。何もないなんて有り得ない。だって土方さんがこんなにも動揺しているのだ。真顔を保っているとはいえ通常運転を装うこともままならないくらいの秘密が彼の中にはあるのだ。そんなの、気にならないわけがない。大人になろうと、年齢を重ねようと、私の好奇心は尽きることはない。なんとしてもそれを暴きたい。
私は逃げていった土方さんの視線を追い掛けて彼の目を覗き込むようにして見据えた。何かしらの焦りのために右往左往とする彼の視線は私と視線と交わることはない。頑なに逃れ続けている。が、私は容赦しない。さっきは私があんなにもドギマギさせられたのだ。存分に仕返しをさせてもらう。
「土方さん土方さん、ロン毛時代疑惑が持ち上がってますけど」
「スキャンダルみたいに言うな、マイクを向けるな」
ドギマギとする彼に構わず右手でマイクを持つ形を作って彼に突き出しながらに私はそう詰め寄ると私の手首を掴んでは退かす。ニタニタと両方の口角を上げて見せれば、彼はチッ、とひとつ舌打ちをした。土方さんが動揺した私を見たってからかわないことは分かっている。けれど、だからといって私もからかわないと言った覚えはない。人は人、私は私だ。
むふふふふ、なんて端から聞いたらさぞかし奇妙だろう笑い声を漏らしながら、にやけきった口元に手を持っていく。
「土方さんにもどうやら若かった時代があったようですねぇ〜、実に面白い」
「何処の物理学者だ。……その絶妙に腹立つ顔やめろ」
完全にお遊びモードに入った私の表情を睨みつけては威圧の込められた声を発してくる。けれど、それすら誤魔化しが含まれていることは見え見えだったのでまったくもって怯むことは出来なかった。
土方さんは溜め息をつきながらにタバコの煙を吐き出して夜の空気に溶かしていく。そうして「つか、」と呟く。焦り気味の声だった。
「話があったんじゃねェのかよ。いつまでもニタニタしてんな、夜が明けるぞ」
「…全力で話題を逸らしてきましたね…」
そんな私の一言をまるで聞こえなかったかのように振る舞っているけれど、絶対に聞こえている。
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Karin(プロフ) - この作品が好きすぎてもう4回ぐらい読み返してます。とっても面白くて、感動的で、大好きな作品です!銀魂のedにも使われていた桜音という曲を聴いた時に、この作品の高杉と主人公のことみたいだなぁと感じました。高杉と恋仲だった頃の話も見てみたくなりました笑 (8月4日 19時) (レス) id: 9e7f4b97d1 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ミウラさん» ありがとうございます!こんなご時世ですので暇をもて余すこともあるかと思いますが、私の作品なんかで良ければ読んでやってください!! (2020年5月9日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - ピピコさん» 嬉しいです!楽しみに待ってます(o^^o)その間ピピコさんの小説何度も読み返しますね笑 (2020年5月9日 21時) (レス) id: 3103cb23ea (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ミウラさん» ミウラさん!ありがとうございます…!!最後まで読んでくださり感謝です…!!高杉さんが出てくるシーンは本当に難しかったです…自分でも書いててしんどかった…!!高杉さんのお話もそのうち書きたいなぁと思っていますのでお楽しみに(o^−^o) (2020年5月9日 19時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - 一気に全巻読めちゃうくらい面白かったです!晋助様のシーンがしんどすぎてずっと泣いてました…笑次は晋助様落ちの小説も書いて欲しいです! (2020年5月9日 8時) (レス) id: 3103cb23ea (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2018年6月14日 19時