それよりも、ずっと 高杉side ページ4
『…痛いのは、嫌いだけどね。でも、』
それよりもずっとずっと、怖いことがあるんだよ、と。Aは呟いた。その声は、とても静かで、不穏な響きを持っていた。どうしてか分からないけれど、俺の中にある何かをざわめかせた。騒がしくなった胸中に黙っていろと内心で言い付けるも、そのざわめきは消え去ることはなかった。風が吹いても、間抜けた鳥の高い鳴き声が聞こえても、俺の心の中心にあるままなくならなかった。さっきまで蝶を追い掛けてはしゃいでいたとは思えないくらいの、悲しげな声。転んだからだとか、俺にドジだと言われたからだとか、そんな理由ではないことはその声色から察せられた。もっと複雑で、俺なんかには到底理解できないような事柄のために、コイツはこんな声を発しているのだと理解した。表情は分からないけれど、笑っているとは考えづらい。
Aの声なのに、まるで別人の声のようで、けれど俺が今背中に背負っていて、声を聞いているのはやはりAで、なんだか奇妙な心持ちになった。気が狂うというかなんというか。
…Aは続ける。声のトーンを落としたままで。
『…私ね、お父さんとお母さんが居ないの』
ドクン、と。心臓が嫌な音をたてた。松陽から聞いた話を思い出す。まさか本人にそれを聞かされるとは思っていなくて、動揺してしまう。
『居なくなっちゃったの。もう会えなくなっちゃったの』
『…』
何も言えなかった。何かを言わなければならないのかすらも分からなくて、もし言うべき言葉があるのだとしたら、俺にはその言葉を見つけられなかった。けれど、苦しいなら話さなくていいのに、Aは語る。『私がね、』
『私が弱かったからなんだよ、二人が居なくなっちゃったのは』
『…は?』
思わずそんな声を漏らしていた。Aの両親が死んだのは、天人に襲われたからだろう。Aが弱いことと、何の関係があるのだろう。率直な疑問が沸いて、俺は言葉を選びながら。最善のものを手に取り吟味しながら、口を開く。
『…なんでお前が弱いせいで、居なくなるんだよ。なんで、お前のせいなんだよ』
Aは弱々しい声で、『だってね、』と。
『…私が弱かったから、二人は私を護るために居なくなったんだよ。私が強かったら、色んなものを護れるくらい強かったら、あんなことにはならなかった』
…何があったのか、どうして二人は居なくなったのかは言わなかったけれど、松陽から話を聞いていた俺は、理解した。
『……だから、私のせい』
コイツは、自分の無力を攻めているのだ。
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Karin(プロフ) - この作品が好きすぎてもう4回ぐらい読み返してます。とっても面白くて、感動的で、大好きな作品です!銀魂のedにも使われていた桜音という曲を聴いた時に、この作品の高杉と主人公のことみたいだなぁと感じました。高杉と恋仲だった頃の話も見てみたくなりました笑 (8月4日 19時) (レス) id: 9e7f4b97d1 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ミウラさん» ありがとうございます!こんなご時世ですので暇をもて余すこともあるかと思いますが、私の作品なんかで良ければ読んでやってください!! (2020年5月9日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - ピピコさん» 嬉しいです!楽しみに待ってます(o^^o)その間ピピコさんの小説何度も読み返しますね笑 (2020年5月9日 21時) (レス) id: 3103cb23ea (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ミウラさん» ミウラさん!ありがとうございます…!!最後まで読んでくださり感謝です…!!高杉さんが出てくるシーンは本当に難しかったです…自分でも書いててしんどかった…!!高杉さんのお話もそのうち書きたいなぁと思っていますのでお楽しみに(o^−^o) (2020年5月9日 19時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - 一気に全巻読めちゃうくらい面白かったです!晋助様のシーンがしんどすぎてずっと泣いてました…笑次は晋助様落ちの小説も書いて欲しいです! (2020年5月9日 8時) (レス) id: 3103cb23ea (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2018年6月14日 19時