＃19 夜は。 ページ19
いけないことが起こったわけでもなかったのに、ちょっと湯船に浸かりすぎたのか熱があるみたいに体が熱い。
浴衣を着直して、敷かれた布団の上でスマホをいじりながらAちゃんが隣で化粧水をペちペちしてるのを横目で見る。
女の子は大忙しだ。
｢としくん、明日も早いから寝よ？｣
あれ、ずっと横目で確認してたのに気づいたら彼女の姿は後ろのスーツケースを広げてる場所にあった。
時刻は12時を回る頃。
たしかに寝るには一番いい時間かもしれない。
｢何時に起きればいい？｣
｢んー、朝ごはんが7時からだから...｣
｢じゃあ6時半くらいでいいかな｣
寝る時は絶対スマホをいじらない主義らしくて、Aちゃんはかなり離れたコンセントに充電ケーブルを繋いでそこでアラームをセットしてこっちに戻ってきた。
布団は隣同士。
綺麗に隣同士。
｢なんか変な感じ！！｣
部屋の電気を落とすと、Aちゃんが楽しそうな声でそんなことを言う。
出会ってから2年経たないくらい。
気づいたらご近所さんになった。
たくさんたくさん苦しんだ。
たくさんたくさん楽しいことがあった。
そして今、隣の布団で寝る仲になった。
｢はぁ....｣
胸にくるものがこみ上げてきて、両手で顔をおおった。
本当に変な感じだ。
幸せすぎて胸が苦しいんだ。
｢おやすみのちゅーしてもいい？｣
｢ふふっ、いつも思うけどこういうのって...許可制なの？｣
｢Aちゃんが嫌なことはしたくないやん...｣
ふたりして天井を見ながら話す。
布がすれる音が聞こえて、それはAちゃんがこっちを向いた音だってすぐに気づいた。
｢嫌なわけないじゃん｣
｢ならよかった...｣
体の向きを変えて、ちょっと距離が遠かったから、Aちゃんの方にぐっと体を寄せる。
暗いのにだんだん目が慣れてきて、ぱっちりとした目がこっちをじーっと見てるのが視界に入った。
｢目、つぶってよ。恥ずかしいじゃん｣
｢見てたいんだもん｣
｢だーめです｣
手で彼女の目を塞いで、吸い寄せられるように短いキスをすると。
何を思ったのか。
｢ガオー｣
｢えっ？！笑｣
｢オオカミさんだよ？俺いま｣
｢それは困っちゃうなぁ...｣
この｢ガオー｣ってなんかの呪文みたい。
許可を取るとか、嫌なことはしたくないとか、さっきのセリフはどこに飛んでいったのか。
彼女の右肩をポンっと押して真上を向かせると、そのまま布団に潜り込んだ。
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作者名：Ma
| 作成日時：2018年9月12日 12時
