零時 -he- ページ3
【…ごめんね。】
響いた、静寂に。
彼女の小さくて細い身体に、まるで吸い込まれるように。
落ちた、彼女の髪が。
さらり、音はたっていなかったけれど、そんな風に。
表情の読めない横顔に髪が掛かって余計に、読めない。
不意に彼女は顔をあげて。
【そっか。】
そう、口角をあげた。
強がりな彼女の精一杯。
それを分かっていながら、別れを告げる俺は、
彼女にどう映っていただろうか。
隣に座る彼女は、真っ直ぐに
怖いほど綺麗な月を見て
長いまつ毛をそっと伏せた。
____綺麗だ。
酷く綺麗で、透けて消えてしまいそうで。
抱き締めたい、引き寄せたい
胸が苦しくなって俯く。
こんな時、何を話したらいいのか
言葉が出てこないことに、苛立ちが走る。
彼女も俺も口数は少ない方だった。
でも彼女との過去を思い出せば、笑顔の瞬間しかでてこない。
そういえば、彼女は泣いていたことがあっただろうか。
少なくとも、俺は見た事がない。
「樹さん。」
聞き慣れた声が鼓膜を揺らす。
そういえば彼女も最初は俺を樹さんって呼んでたな、なんて考えて
声を出すのを忘れていた。
「…樹さん!!」
さっきより強めに名前を呼ばれて、我に返る。
樹「…慎」
す、っと通った鼻筋に綺麗な黒い目
整った顔立ちが俺を覗き込んでいた。
慎「何回呼んでも気づかないから。」
樹「ああ、ごめん、」
慎「…何でですか? 」
樹「…………え?」
いまだ整理しきれていない頭のせいか、
彼の問の意味が分からない。
慎「Aさんの事ですよ。どうして。あんなお互い好きだって、」
樹「慎。」
慎「、はい?」
言い聞かせるように、だけど強い口調で。
彼は僅かに、身じろいだ。
樹「得る物があれば失う物もあるのがこの世界だから。」
その一言に全てを込めて彼に伝えた。
彼は、それを飲み込んだ。
慎「分かってます、でも。ちゃんと、話せば皆、」
樹「じゃあ、慎が幸せにしてあげて。」
慎「何言ってんすか、だってあの人は樹さんだけを好きで、ずっとっ!!」
慎の目は、苦手だ。
彼女の目に似ている。見透かすような、読めない瞳。
樹「いつか、分かるよ。」
呟いて何か言いたげな彼を残して背を向けた。
瞳からは、らしくもない、生暖かい何かが零れた。
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ルーヴ(プロフ) - 秋さん» はじめまして! All dayを拝読頂き、ならびにご指摘ありがとうございます! こちらの二点、修正完了致しました! 隙間時間に書いていることもあり、誤字が多くお恥ずかしい限りです…。これからも何かありましたらご指摘感想、宜しくお願い致します! (2019年12月11日 16時) (レス) id: 2dc1554635 (このIDを非表示/違反報告)
秋 - 続けてのコメントですみません(>_<) 物語読んでいて気が付いたのですが...。 引き寄せてのここの台詞 彰吾「…恋愛は禁止。今の時点で絶対に。それが無かったとしても、俺はあいつに相談相手でありたいの。」 これ正しくは俺はあいつの相談相手ではないんでしょうか? (2019年12月11日 15時) (レス) id: 4332e38eb8 (このIDを非表示/違反報告)
秋 - こんにちは(*^^*) はじめまして。 物語読んでいて気が付いたのですが...。 零時のここの部分 愛した彼の名前を読んだ声は、 これ正しくは名前を呼んだではないんでしょうか? (2019年12月11日 15時) (レス) id: 4332e38eb8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ルーヴ | 作成日時:2019年11月12日 12時