【オリオンの刻印】間違えて日本代表に選ばれちゃった系女子、世界を相手に奮闘する。その３

その１２２：まさかのはじめまして ページ30

「だーっ！ もう、ちょこまか動かないでよ！ 一星くんが頑張ってる途中でしょうが……うわっ！？」



ほたるは一星の元へは行かせまいと、体全体を駆使して必死にアンドレアスの動きを食い止める。

しかし、急ごしらえの技術ではせいぜい時間稼ぎが限界のようで、ほたるのディフェンスはあっさりと突破されてしまった。



「やべっ」

「貰った！」



しまったと思った時にはもう遅い。ほたるが体勢を整える間もなく、アンドレアスは一目散に一星の元へと向かう。



「一星ー！！」



円堂は、ゴールから力強く一星の名前を呼んだ。どうかこの気持ちに応えてくれと、ありったけの願いを込めながら。

すると、一星はそんな円堂の呼びかけに応えるようにして、突如変則的な動きをし始めた。サッカーのプレーとは思えない鮮やかな彼の動きに、観客の視線は釘付けだ。あの動きは一体なんなのだと、フィールドじゅうがざわめき立つ。



「一星……？」



稲森が戸惑いながらも彼の名前を呼ぶと、一星はボールを保有したままぴたりと動きを止めた。

そんな彼の姿を見て、ほたるは思わずはっと息を呑む。身体中の血液が沸き立つようなこの感覚。徐々に激しさを増していく鼓動の音は、明らかにいつも通りではなかった。



「まさか、あの違和感の正体は」



微かに震えた声で呟かれた、ほたるの言葉。

そして、野坂はにこりと微笑みながら一星に声をかける。



「やっと会えたね──一星光くん」



そんな野坂の言葉に、一星はにっと口角を上げた。挑戦的で、凛々しくて、それでいて優しい笑み。



──彼らが事故に遭った日、亡くなってしまったのは弟の光ではなく、兄の充だった。

兄と父親を失い、失意のどん底に立たされた光はその辛い境遇を乗り越えるために、強く逞しかった兄に成り切ってしまったのだとベンチで趙は語る。


彼は血の滲むような努力の結果、兄の充と同等の実力を身につけた。充は天才的な身体能力の持ち主だったが、その反面でやや勢い任せなところがあった。そんな兄とは対照的に、光は選手としては平凡だったものの、優れた分析能力を持っていた。

つまるところ、無事に人格統合を果たした今の一星は、兄と弟の二つの能力を兼ね備えたプレイヤーになったということである。

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