君がいなくちゃ。 ページ2
「ごめん。お前とはもう付き合えない」
僕の目を見てはっきりと言う彼から目が離せない。
「桃瀬君、どうして?僕何かしちゃった?」
生まれて初めて家族以外の人間を愛せた僕は、みっともなく彼に縋りつく。
けれど桃瀬君は苦い表情のまま黙っている。
まさかとは思うけど……
「愛奈ちゃんに別れろって迫られたの……?」
愛奈ちゃんは最近桃瀬君にベタベタしてる正直気持ち悪い女の子。
他の男にも手を出してるくせに彼女持ちの男に手を出すかなぁ?
そしてそれに気づいていない桃瀬君も鈍感過ぎる。もっと自分の魅力を分かって欲しい。
「愛奈は関係ない!」
「じゃあ内山さん?一年の頃から仲良いもんね。あ、それとも萩原さん?中学の頃からの仲なんでしょ?原口君に聞いたよ」
「だからそうじゃないって!!」
強く否定する桃瀬君に首を傾げる。
愛奈ちゃん達じゃないなら僕が知らない子から言われたんだろうか。
桃瀬君は僕と違って交友関係広いからなあ。
苛立たしげに僕を見る彼に戸惑いもせずにこりと微笑みを向ける。
「俺がAと別れたいと思ったのはその妄想癖だ!」
……一瞬彼が何を言ってるのか理解出来なかった。
別れたい原因は僕?でも僕が何時妄想なんてしたの?
分からない事だらけで更に首を捻る。
「無自覚なのは知ってたが、なんの罪もない愛奈達に泥棒猫と言ったらしいじゃないか!幾ら何でも被害妄想が激し過ぎるだろ」
呆れた様に呟く彼の姿を見て胸の奥……心が軋む音がした。
そんな風に悲しませたかったわけでも、困らせたかったわけでもないのに。
ああ、そっか。そうだよね。桃瀬君が僕と別れたい気持ち、良く分かったよ。
「こんな僕……生きてたって仕方ないよね……」
ポツリと口から出た言葉は辺りに虚しく響く。
「なっ……ちょっと待て。また変な妄想を……」
堰を切ったように両目から涙が溢れるのを抑えきれなかった。
桃瀬君はギョッとした顔を浮かべてオロオロし始めた。
「A、待て。泣かないでくれ……」
「ごめんなさい……ごめんなさい……!」
初めて人を愛して不安になった。この人は僕から離れて行かないかと。
抱きしめてくれる優しい彼の背中に腕を回す。
「はあ……反省してるなら別れの言葉を取り消す」
嗚咽が混じって話す事が出来ず頷きだけ返す。
それを見ると彼はふっと笑い愛おしいキスをしてくれる。
ねぇ、君が僕の泣き顔に弱いってとっくに知ってるんだよ?
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