殺人鬼と逃走劇

番外編1 偶には嫉妬も ページ8

カウチに横になっているシンに毛布を掛ける。

閉じられた瞼には、長い睫毛が覗いている。

寝ている姿だけでも絵になりそうな風貌。

寝顔も綺麗とか羨ましいな……

髪を触りながら、そっとキスをする。

普段は照れくさいからキスをしたりはしないが、シンが寝てる間だけは出来た。

「今日も大人気だったね」

子供達と楽しそうに遊んでる姿を見て、とても元殺人鬼とは思えなかった。

けれど、これが本当のシンの、在るべき姿。

森の方では殺人鬼が現れなくなったからか、噂も消え、看板も無くなっていた。

シンは人々に協力的で、時々手伝いをしたりもした。

子供達はシンが大好きで、取り合いに発展するほど。

だがシンも矢張り疲れる様で、家に帰ると直ぐに寝てしまう。

それが少し寂しい、なんて。

僕は彼から離れ、二冊の本を持って家を出た。

少し先まで歩き、隣の家のドアをノックする。

「はーい」

扉を開けながら顔を出す彼に笑い掛ける。

「カインさん、こんにちは」

「こんにちは。今日は如何したの？」

カインさんは、幼い頃から僕の面倒を見てくれていた人物だ。

僕も本当の兄の様に慕っている。

「借りてた本、返しに来ました」

持って来た二冊の本を渡すと、カインさんは頷いた。

「ありがとう。他の本も借りてく？お茶も出すよ」

折角なので、カインさんの家に寄って行く事にした。

カインさんがお茶を淹れてる間、本棚から借りたい本を選ぶ。

あ、これとか良いな。

手に取った本は、北欧神話。

面白い話が沢山載っている。最後は皆死んじゃうけど。

「A、お茶淹れたよ」

カインさんの呼び掛けに返事をする。

夕方くらいまで話し込んで居て、そろそろ帰ろうかと思った。

「カインさん、もう帰ります」

そう告げると、玄関先まで送ってくれた。

カインさんにお礼を言おうと口を開きかけた瞬間、誰かに肩を強く掴まれた。

振り返ると、シンが冷たく刺す様な視線でカインさんを睨みつけていた。

「何してんの……」

低い声で問い掛けるシンに、本を見せる。

「この本をカインさんに借りてたんだ」

そう言うと、シンは拍子抜けしたのか、安堵の笑みを浮かべた。

「良かった……」

抱き着いてくる彼に訳を聞くと、起きたら僕が居なくて、知らない男と一緒に居るのを見て不安に思ったらしい。

「大丈夫だよ。帰ろ」

宥める為にシンの手を繋いでカインさんに再度お礼を言って帰った。

偶には嫉妬も悪くないなと感じながら。

-fin-

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