殺人鬼と逃走劇

番外編8 サイコパスと何でも屋（後編） ページ15

何でも屋は拒否されたのが気に喰わない様で、拗ねてしまった。

そのやり取りを見ながらサイコパスも口を開く。

「俺さ、不老不死になって良かったかも」

彼の意外な言い分に驚いて尋ねた。

彼は自分の命にすら執着していないのに。

「お前が幸せになる瞬間をこの瞳で見られたから」

……此奴、本当にサイコパス？熱でもあるんじゃないの。

普段は絶対こんな事言わない。まして、俺の幸せそうな姿を見たって……

早く帰って貰おう。Aに移されたら迷惑だ。

サイコパスは俺の心を見透かしたかの様に呆れた視線を向けた。

「世の中の奴らは俺をサイコパスって言うけど、俺正直自覚が無いし、殺意があって殺したわけじゃない」

ああ、それは俺にも分かる。

俺も沢山人を殺して来たけど、殺すと言う感覚より遊んでいる感覚だった。

その過程で人間が死ぬのは仕方ない事だって。

それくらいにしか思ってなかった。

でも今はAの為に誰も殺してない。

此奴らは分かんないけど。

「あんたらは今まで通り過ごすの？」

今まで、とは勿論人を殺しながら生きて行くという意味だ。

「当たり前じゃん。やめられないよ」

サイコパスの彼は笑いながらそう答えた。隣で何でも屋も頷いている。

「ボク、生きてる人間は嫌いだから。死体に成った時が、人間が一番綺麗に成る瞬間だからね」

ふーん。まあいいや。俺はAに危害を加えなければそれで良い。

この人達は律儀にもその約束を守ってくれてる。

優しいんだか残酷なんだか……

俺はまた苦笑いし、教会の方を振り返って見る。

そろそろAの処に戻ろうかな。

「あ、シン」

サイコパスの彼に呼び止められ、彼を見る。

彼は俺の傍まで来ると、手に持っていた物を渡した。

小さな懐中時計。俺の死んだ両親の形見。

「何であんたが持ってるの？」

家族の事を思い出すと更に愛して欲しくなって、切なくなるから棄てたのに。

「それ、お前の妻を護る御守り代わりにしたら？」

もっと驚いた。今日の彼は、やはり可笑しい。

御守りだって信じようとしないのに。本当に如何したんだろう。

「俺は愛なんて分かんないけど、それがお前の幸せなら、心から祝ってやる。お前は愛ってやつを掴み取ったんだから」

その言葉を聴き、彼の様子が可笑しい理由が分かった。

彼は一瞬だけでも優しさを見せてくれてるんだって。

俺には優しい友人が二人も居る。

何時か、友人達が幸せを見つける日が来る様に。そう願った。

-fin-

番外編9 浮気喧嘩（前編）→←番外編7 サイコパスと何でも屋（前編）

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す