拉致 ページ3
ー及川徹視点ー
Aが電話で立って、それからは一瞬のことだった。
あの口調だと皐月さんかな、なんて悔し涙をこらえながら餃子と塩ラーメンを頬張っていたらどこか見覚えのあるスーツの男数人が流れるように会計を済ませ、Aの私物を回収して行く。
入り口の向こう側には少し申し訳なさそうにこちらに頭を下げる皐月さんがちらりとのれんの隙間から見えた。
何を言うことも、止めることも突然の出来事にできずに固まっているだけだった。
何か知ってる風な彼女、花園は下唇を噛んでいて食い込んでいる。
及川「いきなりどう言う…」
花園「…インハイが終わったらとは聞いてたけど…」
ボソリと彼女がつぶやく。
インハイ予選が終わったら何？
Aが連れていかれる？冗談じゃない。
…冷静になれ、自分…
少なくともAが抵抗していなかったところを見ると前々から少し話はあったんだろう。
つまり、高校には少なくともくるはずだ。部活はともかくとして。
花園「…及川、Aがこの前風邪で欠席してた時…実は誘拐されてたんだ」
突然の脈絡の無い告白に動揺する。
…え、冗談？今はよそう。
冗談でなかったとして、今連れていかれたのとどう繋がる？
帰りが遅いと心配するから強制帰還？まだ１９時だと言うのにか？
たくさんの疑問で頭の中が埋め尽くされる。
爆発せん勢いでぐるぐるとたくさんの単語が巡る。
花園「今日は解散にしよう。
及川、詳しくはご両親に聞いて。」
ーーーーーー
無口の岩ちゃんと花園と一緒に家の方へと歩き出す。
白鳥沢に負けて落ち込み、反省モードに入る前になんて横槍だろう。
それもとてつもなく重い一撃で。
及川「じゃーね、岩ちゃん。花園」
俺に背中を向けて彼らは数件先に向かって行く。
ここから見えるAの部屋に明かりはついていない。
もちろん、リビングがある一階も。
及川母「お帰りなさい」
ドアを開けた音を聞いてか、母さんが迎え入れてくれる。
バレーの大会のことと、Aのことをどちらもが表情に出ていて複雑そうだ。
普段着でなくピンクベージュのすとんとしたワンピースを着ている。
いわゆる、出かけるための服だろう。
及川母「ごめんなさいね。
徹、篠原の本家の方に行ってちょうだい。」
あれよあれよ言う間に俺はシャワーに押し込められて、外出をする用意をさせられていた。
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作者名：あやにゃん | 作成日時：2019年4月16日 0時
