漆拾陸話 新たな友達 ページ29
「なら近くの藤の家紋の家に向かいましょう。…っ」
「おいっ！……はぁ、乗れ。」
「え？」
痛みに体が強ばるのを見逃せるはずもなく彼女の前にしゃがむ。
しぶる彼女を無理やり乗せて歩く。
「そう言えば名前を聞いてませんでしたね。私は吟河Aです。勾玉さんは？」
「獪岳だ」
「強そうなお名前ですね。」
微妙な感想。というか名前も知らない奴と友達とか頭がイカれてる。
「友達増えちゃいましたー。文通しましょうねー」
「くたばれ。」
「あれ？どこぞのおはぎ柱と既視感が……」
ブツブツつぶやく彼女。
噂ではその能面に隠された素顔は鬼すら固まるほどの醜女だとか。
しかしこの女。さらさらな絹糸のような髪に鈴の音のような声。女らしい豊かな体つき。
恵まれている方だと思う。現に背中に当たる柔らかい感触に柄にもなく意識してしまう。
こんなにも優れた女にも欠点があるとは神は意外と平等主義なのかもしれない。
「つーか友達なら素顔晒せや。」
「え？」
「暑苦しいんだよ……」
湿度の高い森の中。正直見ていてイラついていた。
「俺は醜女とか顔面について気にしねーし興味ねぇからとっとと外せや。」
「……うん。」
首に回された腕が少し強くなった気がした。
この女も苦労したのかもしれない。
「あの、命について保証はしませんよ。」
「は？」
少し顔を背中の方へ向ければ。見飽きた能面は見えなかった。
その代わり、そこには花、宝石。どんなに美しいものでも形容することの出来ない輪郭に目鼻の全てが整った美し過ぎる顔がそこにあった。
ありがとう。獪岳くん……
少し目の細めたその顔を見た瞬間俺の意識は無くなった。
そして目が覚めれば全力で謝られたくさんのお詫びの品のつもりか饅頭を渡された。
何故かこの女と喋っている時だけ心が少しだけ満たされた気がした。
藤の家紋の家を出て別れてからは少しだが文通はしたが彼女とはそれっきり会うことはなかった。
ただ………“A”といる時、俺は自分も気づかないうちに幸福感を感じていた。
·
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―――――――――――――――ただ、飢えきった俺の心が彼女との少ない交流で満たされることはなかった。
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佑奈(プロフ) - 面白くて一気に読んじゃいました！これからも応援してます！ (2020年8月28日 13時) (
レス) id: 4ea904291e (このIDを非表示/違反報告)
餡蜜 - 不死川さんと宇随さん、面白いです。フフフッ (2020年8月8日 19時) (レス) id: 2f84cbf165 (このIDを非表示/違反報告)
みるく - すごい文才だと思います！私、応援しています！ (2020年4月22日 16時) (レス) id: 43416ff750 (このIDを非表示/違反報告)
寧夏(プロフ) - て、、低評価が着いたのですか…作者様の作品はすんばらしいので自信もってください！…私に言われても変わんないか笑評価して続編移ります！相変わらず最高です！ (2020年4月5日 7時) (レス) id: addc97a0c8 (このIDを非表示/違反報告)
サクラミ - 面白すぎて辛いwww もうほんっとに大好きです！ (2020年3月28日 9時) (レス) id: 2718317c45 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：AOI 3
| 作成日時：2019年12月11日 13時
