男装柱-弐-【不死川実弥】

第53話 ページ6

不死川実弥side





最悪な気分だァ。



よりによって1番嫌いな奴に会っちまった。



霧柱の野郎……

相変わらずの憎まれ口だったが、いつもよりはなんも言ってこなかったなァ。

俺なんか相手じゃねェってか。クソが。


1人で勝手に考えてるだけだが、やっぱり腹が立つ。






「か、風柱様…っ、はぁ」





後ろを必死に追って来た女の苦しそうな呼吸音が聞こえてきて、現実に引き戻される。



何も考えずに早足で歩いてしまった。


悪りィ、と呟き女の歩く速さに合わせる。




それに気づいた女が、遠慮がちに話しかけてきた。





「風柱様って、優しいんですね」



「アァ？」





恥ずかしそうにもじもじしながら隣を歩く女を横目で見る。




その台詞、その仕草に、

今1番会いたい彼女の姿が重なった。





他の女にこんな仕草されても、優しいなんて言われても、なんか違ェと思っちまう。



あいつが良い。
あいつじゃなきゃ駄目だ。





ーーー『優しいんですね』





彼女に言われた言葉を思い出す。


胸のあたりがじんわりと痺れるような感じがした。




そりゃあ、お前にそう言って喜んで貰えるなら、何でもするに決まってんだろ。





……会いてェなァ。





同僚の言葉を借りるなら、ド派手な恋ってやつなのだろうか。

更には別の同僚の言う「キュンキュン」とはこういうことなのだろうか。




あいつらの言ってること(特に後者)はよくわかんねェが、今の気持ちを俺の言葉で言うならば、







…彼女が欲しい、と思う。

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