【銀魂】沖田隊長、おはようございます【沖田総悟】

行ってきやす　沖田side ページ12

「彼女は今も、総ちゃんの傍に居るのよ」


総ちゃんの手を握っていてくれているのよ、と。姉上はそう言った。本当なのだと思った。素直に信じることが出来た。姉上の言葉を。そこにある確かな温もりを。Aは今も何処かで、俺の傍で、俺の手を握っていてくれているのだと。そう信じられた。目には見えないし、ここにAの姿はない。それでも、Aは俺の隣に居続けてくれているのだ。Aは今でも、約束を果たそうとしてくれているのだ。俺はその温もりに応えるように。応えたくて、自分の手をギュッと握る。温もりが俺の手のひらの中にある。まるで手を繋いでいるような、そんな気がする。

Aとの、二人で生き抜いていくという約束を。互いに護り合い、隣り合う約束を、俺は守らなければいけない。Aだけじゃない、陽太との約束だってあるし、近藤さんだって俺が消えたらとんでもねェ泣きっ面して泣くんだろうし、土方さんだってまだ亡き者にしていない。やらなければならないことが、山ほどある。

それに。


──Aを泣かせたまま、ずっとここに居るわけにはいかねェな。


「…姉上」

「なぁに、総ちゃん」

「俺、帰らなきゃいけやせん」

「そうね」

「Aも、真選組の奴等も待ってるんで」

「えぇ」


姉上を見据える。姉上も、俺を見据えている。何処か寂しげに、憂いのある目は、それでも凛としていて綺麗だった。


「大切な人達が居て、帰りを待っていてくれてるって、とても素敵なことだわ」

「……まぁ、ほとんどがむさ苦しい連中ですけどねィ」

「でも、総ちゃんは幸せそうじゃない」

「そう見えやすか？」

「えぇ。とても」


姉上は頷く。うん、俺は幸せなのだろう。姉上がそのことを肯定しなくたって、分かっている。誰かが、自分の居るべき場所で、自分の帰りを待っている。だから帰ろうと思えるし、だからこそ俺が居るべき場所なのだ。帰るべき場所なのだ。

帰ろう。真選組に。Aの隣に。


「皆と仲良くね」

「はい」

「喧嘩しちゃダメよ？」

「はい」

「ご飯もしっかり食べて、ちゃんと寝て、それから、」


姉上が笑う。


「幸せにして、幸せになってね」


行ってらっしゃい、と。あの頃、道場に行く俺を見送るときと同じように、姉上は笑ってそう言った。だから俺も、笑って見せた。


「行ってきやす、姉上」


それと同時に、景色が霞んで白くなって、景色が消えていった。


姉上の姿が、見えなくなっていった。

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