【銀魂】沖田隊長、おはようございます【沖田総悟】

今、誰よりも何よりも　沖田side ページ11

ごめんなさい、ごめんなさい、と。そう何度も謝りながら、俺の名前を弱々しく呼びながら、Aは泣いていた。身体中に傷を負いながら、けれどきっと痛みとは別の理由でその華奢な身体を震わせて、まるで何かに怯えるように泣いていた。自分だって身体が痛いはずなのに、自分だって銃弾に足を撃たれたはずなのに、俺の名前ばかりをアイツは呼んでいた。Aは何も悪くないのに、謝る必要なんて何一つとしてないのに、ずっと、ひたすらに俺に謝り続けていたのを、霞んだ意識の中で聞いていたのを覚えている。頭の中で反響して、その声が酷く悲しげで、苦しそうで、胸を痛めていたのを覚えている。

今すぐに起き上がって、大丈夫だと、泣かなくていいんだと、そう言って抱き締めてやりたかった。安心させてやりたかった。けれど、身体はピクリとも動かなくて、言うことを聞かなくて、もどかしいと、そう考えるよりも前に、俺は意識を失ったのだ。


──Aは、まだ泣いているんじゃないか？

──何処かで、一人で泣いているんじゃないか？


そう思ったら居ても立っても居られなくなって、俺は立ち上がった。姉上が屈んでいた体勢を直して、そんな俺を見上げる。あぁ、姉上はこんなにも小さかったっけ、なんてことを頭の片隅で思いながら、俺は「姉上」と呼ぶ。切羽詰まったような、胸がいっぱいで潰れかけたような声色で。


「俺…！アイツを…！！Aを…！！」

「Aさんって言うのね、彼女は」


と、今にも駆け出しそうになる俺の目の前で、姉上は対照的に、落ち着いた、やっぱり優しい声でそう言う。その声のおかげか、俺も少し落ち着くことが出来た。


「…はい……日下部Aです」

「日下部、Aさん…」


なんだか暖かい名前をした方ね、と。姉上は春の日溜まりのように笑う。そして、俺の目を真っ直ぐに見つめて、姉上は続ける。俺と同じ色をしたその瞳の奥には、真剣さを含んだ色が滲んでいるように見えた。


「…総ちゃん、Aさんは、大事？」

「はい」


迷うこともなく、考えることもなく、俺は頷く。


「…今、誰よりも何よりも、アイツに会いたいです」


きっと何処かで、俺の帰りを待っているはずだから。そろそろいい加減帰ってやらないと、俺不足で死んでしまう頃だろうから。

そう言うと、姉上はまた微笑んでは、俺の右手を指差して見せた。俺は自分の右手に視線を持っていく。すると、そういえば、姉上は俺の手を握っていないことに気付く。けれどそこには、まだ優しい温度があり続けている。薄れることなく、そこに。

行ってきやす　沖田side→←その名前を　沖田side

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す