彼の元まで ページ1
Aside
『沖田くんは生きてる』
『まだ必死こいて、生きようとしてるだろ』
旦那と甘味処で別れた後、私は江戸の町を走っていた。息を切らして、脇腹が鈍く痛みを帯びて、時折足がもつれそうになって。それでも足を止めることなく走っていた。足の止め方を忘れてしまったかのように、止まることを知らないように、人混みの中を駆け抜けていった。風が顔にぶつかる。隊服の内側で、彼から貰ったマーガレットのネックレスが揺れている。こんなに夢中になるくらいに、誰かに会いたくて仕方がなくて走ることは、きっと幸せなのだと私は思った。昔ドラマで見たことがある。好きな人の元へ転びながらでも走っていくヒロインの姿を。その時の私は、そんなに慌てて走ったら危ないぐらいにしか思っていなかった。彼女がその胸の中に抱えた想いを、考えもしなかった。
どうしてあのヒロインは走っていたのだろう。転んでも人にぶつかっても、それでも走り続けていたのだろう。それが今の私には分かった。ただ、会いたいだけなのだ。一分でも早く、一秒でも早く、大好きな人に会いたいだけなのだ。その手に触れたくて、堪らないのだ。
この瞬間。私の頭の中には、沖田隊長のことだけがあった。彼のことばかりを考えていた。彼に会いたいと、ひたすらに願った。そしてそんな時間が、とても愛しいものだと感じていた。幸せだと思った。さっきまで悲しくて悔しくて寂しくて怖くて、泣いてばかりだったのに、今はそれを抱えて、受け入れた上で今を愛しいと思えるようになった。彼とのこれからを、真っ直ぐに願えるようになった。
沖田隊長は、生きている。まだ何も諦めてなんかいない。私と彼との約束は、まだ生きている。
だから私は、彼を信じる。信じていたいと、旦那に目を覚まさせて貰ったことによって思えたのだ。
まだ、失ってしまうのではないかという恐れはある。どうしようもなくそれは存在する。でも、渇れは諦めていない。生きることを、諦めていない。なら私も、何一つとして諦めるわけにはいかない。
私達は生きるのだ。何があっても二人で、助け合って、護り合いながら、生きていくのだ。
「沖田隊長…!!」
彼の名前を呼ぶ。彼への想いが膨らむ。全部全部伝えたくなる。泣きたくなるくらい、彼に会いたくなる。
そんなに大袈裟な距離ではないのに、病院までの道のりが酷く長く感じられた。彼の居る病院が見えてくる。走る速度が上がる。少しずつ、彼に近付いていく。
彼の元まで、あと少し。
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もち(プロフ) - 感動して1人で泣いてました😭😭とても引き込まれて気づいたら最後まで読んでました!!完結まで長かったですが素敵な小説書いてくれてありがとうございました!お疲れ様でした!😊😊 (2022年4月4日 14時) (レス) id: f64c573671 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - astrumlunaさん» astrumlunaさん!ありがとうございます!!最後まで読んでくださり嬉しいです!!私もこのお話の沖田隊長と夢主ちゃんはとても愛しいです(o^−^o) これからも二人は幸せになっていくんだと思います…!!素敵なコメントありがとうございました!! (2020年4月16日 12時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
astrumluna - この作品を見つけてから、一瞬で読み終わってしまいました!! 凄く引き込まれるお話で、沖田さんも夢主ちゃんも大好きです笑 最終話の“さぁ、今日も〜”という部分でこれからも幸せな日々が続いていく感じがしてとても好きです!! もっともっと2人の物語を読みたいです!! (2020年4月16日 12時) (レス) id: 67fd5c2fc4 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 憐さん» 憐さん!ありがとうございます!お返事が遅れてしまってすみません…!一日で…!!長いのにありがとうございますぅぅ!!日下部さんは読者様から人気でとても嬉しく思います!(o^−^o) きゅんきゅんを目指したので沢山きゅんきゅんして頂けたなら大成功です! (2020年2月19日 16時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - yukakdonaldさん» yukakdonaldさん!ありがとうございます!お返事が遅れてしまい申し訳ありません!!番外編!久し振りに日下部さんを書きたいです…!!どんな風にしようかそろそろ考えてみようと思います!!最後まで読んでくださりありがとうございました!! (2020年2月19日 16時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2019年4月5日 21時