17 ページ20
────相馬さん、だったかな。
嫌な沈黙が、一瞬会議室に流れ込む。
「モニターを通して見た限り、ヘリ到着時、患者は既に手の施しようがない状態でした」
「…全身状態も悪く、すでに心停止寸前あの状態から回復させるのは困難だと判断しました」
耕作の言葉を引き継いで、私は皆より頭ひとつ分低い位置から言葉を選んで告げていく。
「そもそもドクターヘリの最大の目的は、医師の現場への派遣と、患者の治療開始までの時間短縮です。
それは、今回もきちんと果たされていました」
ゆっくり、相手をなだめるような口調で、橘先生が報告をする。
「────つまり？」
「患者の死亡と、ヘリの着陸失敗に、因果関係はないと言いきれます」
「では問題は、ヘリの運行そのものということですね」
相馬さんのその言葉に、恵ちゃんとふたりで反応する。
────ちょっとまって、どう解釈したらそうなるの。
「実際、着陸時はどういう状況だったんですか」
もうひとり、向かって右側に座っていた女性が、早川さんへ質問した。
「当日は…夏のわりに湿度の低い日で、ダウンウォッシュで砂埃が舞って────」
「ダウンウォッシュ？」
「ヘリで生じる下向きの強い風のことです」
丁寧に答えて、早川さんは続ける。
「それで、視界不良に陥って、方向感覚と高度感覚を失いました。
気づいたときには、木にメインローターを接触させていました」
だからあんなに揺れたのか、と思わず後頭部に手をやった。
「────機長である自分の責任です」
────早川さん…。
眉根を寄せて彼を見つめると、その視線がぶつかる。
私は一度口を開きかけたけれど、悪いタイミングで女性の方が質問を繰り返した。
「患者が皆重症だったんですよね。
…焦りがあったんじゃありませんか」
私のふたつ隣、うつむいた灰谷先生を恵ちゃんが気づかわしげに見つめるのが、視界の隅に入った。
「そうですね。
聞けば必ず助けたくなって焦ると思います。
ですから私は患者情報に関する無線は聞かないことにしています」
「では操縦時の環境は、いつもと変わらなかったんですね」
「────はい」
「なのに、…木に接触した」
────くどい。
机の下で点滴の繋がっていないほうの手を、きつく握りしめる。
とにかく何か言ったほうがいいだろうと口を開こうとしたとき、再度私より先に声を発した人がいた。
「……僕のせいです」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 4208人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
琴子(プロフ) - こちらの誤字。先日ボードにお願いした2のリクエスト訂正があります。樋山先生が藤川までとブチ切れる…の樋山。ではなく緋山です。返信不要。よろしくお願いします。また！ (2017年9月4日 16時) (
レス) id: cc1132a1bd (このIDを非表示/違反報告)
kii - 白石先生のリクエスト叶えてくださりありがとうございました！本当に白石先生そのもので感動しました！ついに明日はコードブルー放送日ですね！緋山先生がどうなっちゃうのか…更新も楽しみにしています！頑張ってください！ (2017年9月3日 23時) (レス) id: 7fea498993 (このIDを非表示/違反報告)
ayanel(プロフ) - たむ。さん» 訂正しました、ご指摘ありがとうございます。 (2017年9月3日 18時) (レス) id: 61d33ebdb1 (このIDを非表示/違反報告)
たむ。(プロフ) - 次回予告、「感動」ではなく「感度」になってます!!! (2017年9月3日 18時) (レス) id: 2fb288b2c4 (このIDを非表示/違反報告)
楓 - 藍沢先生誕生日話面白かったです！( ^ω^ )生誕祭ですね♪ 来年も、絶対香坂先生は隣にいますよ♪ (2017年9月3日 15時) (レス) id: eeb5e94ce7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ayanel
| 作成日時：2017年8月29日 0時
